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俺、マウンテンバイクで山道を爆走
川原に戻ってくると空に雲が出てきて、風が冷たくなってきた。そろそろ戻るか。
「ど田舎村の川のほうは鮭が海から上がってくるんだと。季節になったらあっちも行ってみよう」
「鮭ですか!」
突如ユキりんのテンションが上がった。アメジスト色の澄んだお目々がキラキラだべ。
「そうそう。ユキりんがこの村に来てすぐのとき、ばあちゃんが焼き鮭入りのおにぎり作ってくれただろ? あの塩鮭がど田舎村産」
「ユキリーンちゃ。しゃけしゃん、しゅきなの?」
ピナレラちゃんに小首を傾げて聞かれて、ユキりんはハッと我に返った。
「……故郷は鮭の名産地だったんで」
言葉少なにそれだけ答えた。なるほど。ユキりんは鮭の名産地の出身か。
だが追求してはならない。少しずつ懐きつつあるユキりんだ。ここで深追いしてまた警戒心たっぷりの捨て猫モードに戻しちゃなんね。
「そっか」
「あのねあのね。あたちもしゃけしゃん、だいしゅき。しゅーぷにしゅるとおいちいの」
「……生鮭ならミルクスープにすると絶品だよ。この村でも食べられたらいいね」
俺は塩辛い焼き鮭を少しずつ日本酒の肴に摘まむのが好きだなあ。皮までカリッと焼いたやつがいい。
とはいえ日本酒の備蓄はもうほとんどないんだが。焼酎ならネットスーパーで安いとき買い溜めしたのがまだケースで残っている。
今回、川原までの山道にはマウンテンバイクを押して来ている。
ママチャリみたいに荷台を後ろに増設してあるからそこにクーラーボックスとキャンプ用品を載っけてきた。
さて。ここから先は良い子は真似しちゃなんね。なんねったらなんね。ユキ兄ちゃんとの約束だっぺ!
山道はマウンテンバイクに乗ってで降りることにする。――三人で。
まず、後付けの前カゴにピナレラちゃんイン。
元々日本にいたとき隣町への買い出し用にがっちり固定してあった深めの前カゴだ。まだまだ四歳児の体重ならいける。あと五キロプラスまでならいける。
俺はふつうにサドルに座る。
ユキりんは後輪に設置したサイドステップに両足をかけてリアキャリア、後輪上の荷台部分に乗っからせる。腕は俺の腰に回してしっかりしがみついてもらう。
使ったキャンプ用品はリュックに詰めて、釣った鮎入りのクーラーボックスに括り付ける。でこれはユキりんに背負ってもらう。氷も詰まっててちょっと重いがクーラーボックスは中サイズだ。男の子のユキりんならまあいけるべさ。
あとはこのまま俺がペダルを漕いで山を降りれば、行きは三十分かかった山道も五分だ。
だが良い子は真似しちゃいけないぞ。このマウンテンバイク、男爵に頼んで異世界仕様に改造してもらったやつだからな。
タイヤのゴムや中のチューブ、サスペンションを強化してもらっている。仕組みは単純だから万が一故障しても替えの部品は魔導具師に依頼すれば問題ないそうだ。やったぜ! 異世界でも永久に乗れる!
「え、ちょ、ユウキさん、これどう見ても無理なやつではー!?」
「あははははは! はやい! おにいちゃはやいー!」
「二人とも口閉じてろ、舌噛むぞ!」
「あいっ」
「ひいいぃ……ッ」
山を降りるまで五分。そこからばあちゃんちまではアスファルト舗装の道路があるのでさらに五分。車が通らない分、限界までスピードを上げて。
「到着!」
「とうちゃーく! たのしかったー!」
「……次があったら僕は馬借りてきます……吐きそう……」
ふらふらのユキりんをピナレラちゃんに任せて、俺は鮎を男爵の屋敷へ届けに。
「ばあちゃんに米だけ研いでおいてって言っといてくれ」
「あい!」
「了解です……」
ばあちゃんは昼間休んで元気になったかな。夜は鮎を使って俺が作るっぺ!
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