ドラゴンクエストV(ゲーム)/スクウェア・エニックス

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ドラゴンクエストV(ゲーム)/スクウェア・エニックス

【謎の青年】 「坊や、お父さんを大切にしてあげるんだよ」  ◇  俺の「性癖」ってなんだろうと考え、色んな属性から共通項をとってみると『時空間ネタ』な気がします。  長いときを経て過去と未来が繋がるところとか、平行世界の自分と出会うこととか。あるいは本編とは異なる、主人公がいなかったif世界という意味での『正史』とかが本当に大好きです。  じゃあ、その時空間ネタが性癖となった原点って何なの?と考えたときに浮かんだのがこのシーンです。  そもそもドラゴンクエストVのココ好きポイントはたくさんあるんです。が、いったん置いといて主題の話をしますね。  このセリフが出たのは結構初期の方。なんか主人公に似てるやつが家の前にいるんですよね。で、話しかけると「おい坊主良いモン持ってるじゃねぇか、ちょっと見せてみな(意訳)」と言い、見せるまで解放してくれないっていうド畜生です。  そして主人公の宝物をこっそりすり替えてパクった謎の青年が言うんですよね。「坊や、お父さんを大切にしてあげるんだよ」と。  この言葉の本当の意味が分かるのは物語後半。謎の青年という表記になっていますが、この青年の正体は成長した主人公。宝物が必要になったので妖精に協力してもらい過去の世界へとやってきたのです。  ゲームというのは子どもの頃にプレイしたときと、大人になってからプレイしたときとでは、ゲーム性が違うように感じることが多々あると思います。  一番有名なのはポケモンですかね。子どもの頃は殿堂入りがクリア。しかし、大人になってからは殿堂入りまでがチュートリアル。本当の意味で楽しむ、なんて言葉を使うのは野暮ですが、また違った楽しみ方ができるのもゲームの良いところです。  ちょっと悲しいこともありますけれどね。子どもの頃は「ヤンガスつえー!」とか「テリーかっけー!つえー!」とか目をキラキラさせていたのに、大人になって攻略サイトを見たら「いやお前弱かったんかい……」となるみたいな。  さて、当時プレイしたときの感想は、感動のポイントは「もうオーブは壊れちゃったのに、どうやって手に入れるんだろう。過去に戻って手に入れる?……あーっ!あのときヤツってこのときか!」だったと思います。  もちろん、それも充分に感動ポイントです。感動というよりは感心ですかね。そういうギミックか、と。結構な間を置いていたので衝撃もひとしおですね。  で、それもあるんですけれど、けれども。主人公って凄絶な人生を送っているわけですよ。  物心がついたときには母はおらず父と二人旅。自分の中で大部分を占める父という存在が目の前で殺され、殺した相手に拉致られ、少年から青年という一番楽しい時期の10年間を奴隷にされ、結婚して子どもも生まれたと思ったらすぐに石にされてしまい、赤ちゃんから子どもまでの一番かわいい時期を見ることができず。両親の仇を討とうにも勇者でないとその資格はなく、さらにドラクエというシリーズではたいてい主人公が勇者なのに、ドラクエVでは主人公は勇者でない。  そんな中、必要なアイテムを手に入れるという名目ではあるけれど、過去に戻ることで、自分を庇って目の前で死んだ、二度と会えないと思っていた父と再会する契機が訪れる。このときの主人公の心境は計り知れません。  未来を知っている主人公は父親を引き留めようとするんですよね。でも父親からしたら自分の息子は小さなこどもであって、こんな知らん青年に「国王に呼ばれているけれど行くな」と止められたところで聞く耳をもたないのも確か。  未来は変えられない。そも、過去を変えられたところで自分が今生きている世界線には影響を与えることができない、みたいな感じだった気がする。それでもその言葉が口から出てしまったんでしょうね。  そこで例のセリフですよ。「坊や、お父さんを大切にしてあげるんだよ」  そしてさらに後の話。もう一度過去の世界へ行く機会があります。その時代は主人公が生まれるよりずっと前の時代で、父親の手助けをすることになるんですよね。で、後で来てくれと言われたので行ってみたらいなくて、伝言だけある。  その伝言は「助けてくれてありがとう。次に会う時は、この命に代えてもお礼をするから」というもの。主人公を守って目の前で死んだので、当人にその約束を果たしたつもりはないけれど、本当に有言実行してくれたというもの。  主人公からしたら「そんなことはしてくれなくてもいい。ただ生きてほしかった」という感情でしょうが、過去は変えられないということで。  短いセリフだけど、複雑な思いを嚙み締めた主人公のセリフ。大人になってからプレイしてこのシーンに出会ったときは「そうだよなぁ……そうだよなぁ……」と俺は瞳を潤ませていました。  次にドラクエVで好きなポイントは仇の1人である敵を倒したときに息子から言われる「お、お父さんどうしたの……? すごく怖い顔してる」というセリフ。  息子の怯え具合と驚き具合からして、普段は温和な面しか見せてこなかったのに、思わず顔に出てしまったんだと考えると、積年の恨みというか、心の奥底にあったどす黒い感情が込み上げてしまったんだな、と感じ入るものがあります。  さらにいえば、ドラクエVでは魔物を仲間にすることができるんですけれど、その理由として「主人公はめっちゃ優しい。瞳が慈愛に満ちている(意訳)」ということを言われたりするんですよね。  恐怖の対象、敵である魔物にすらそんな顔を見せているというのに、仇をうったときに浮かべた表情は……と考えるとマジで良い。
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