いれかえ

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教室は騒然としていた。 朝から先生が変な事を言うからだ。 「これまでの人類の長い歴史の中で、私たちの認識が大きく間違っていた事が、学術的に証明されました」 先生はメガネのつるを指先で押し上げながらそう言った。 「実はお父さんが『お母さん』で、お母さんが『お父さん』だったのです」 後ろの席のカズくんがすかさず質問した。 「それは男と女が反対だと言う事ですか? 」 すると先生は血相を変えて 「男とか女とか、そう言うことではありません!! 二度とそんな事を口にしないように」 そう言ってから俯いて、頭を抱えて黙り込んだ。 何だ簡単な事じゃないか。 お父さんの事を『お母さん』と呼んで、お母さんの事を『お父さん』と呼べばいいだけなんだろう? 低学年ならまだしも、五年生の僕にはそれぐらいの事は朝飯前というものだ。 先生は何かに気付いた様子で、もう一度顔を上げると 「ですから、これまで間違えて先生の事を『お母さん』と呼んでしまう事があったかもしれませんが、その時もちゃんと『お父さん』と呼ぶようにして下さい」 先生は一言一言を、まるでドミノを並べるように、慎重に、じっくりと丁寧に言う。 なるほど、それは難しいかもしれない。 間違える時は意識して間違えてないものな。 「先生だって本当に驚いています。みんなにはこれから、お(うち)の方でも色々と大変な思いをさせるかも知れませんが、どうか落ち着いて、困った事があったら何でも先生に相談して下さい」 僕は大丈夫だ。 そんな事で困ったりしない。 見たところ、先生の方が大丈夫でなさそうだ。 僕が先生の相談に乗ってあげてもいいくらい。 ちゃんと分かってる。 家に帰ったらまず、 「お父さんただいま! 」 って元気に言えばいいだけなんだ。
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