5人が本棚に入れています
本棚に追加
教室は騒然としていた。
朝から先生が変な事を言うからだ。
「これまでの人類の長い歴史の中で、私たちの認識が大きく間違っていた事が、学術的に証明されました」
先生はメガネのつるを指先で押し上げながらそう言った。
「実はお父さんが『お母さん』で、お母さんが『お父さん』だったのです」
後ろの席のカズくんがすかさず質問した。
「それは男と女が反対だと言う事ですか? 」
すると先生は血相を変えて
「男とか女とか、そう言うことではありません!! 二度とそんな事を口にしないように」
そう言ってから俯いて、頭を抱えて黙り込んだ。
何だ簡単な事じゃないか。
お父さんの事を『お母さん』と呼んで、お母さんの事を『お父さん』と呼べばいいだけなんだろう?
低学年ならまだしも、五年生の僕にはそれぐらいの事は朝飯前というものだ。
先生は何かに気付いた様子で、もう一度顔を上げると
「ですから、これまで間違えて先生の事を『お母さん』と呼んでしまう事があったかもしれませんが、その時もちゃんと『お父さん』と呼ぶようにして下さい」
先生は一言一言を、まるでドミノを並べるように、慎重に、じっくりと丁寧に言う。
なるほど、それは難しいかもしれない。
間違える時は意識して間違えてないものな。
「先生だって本当に驚いています。みんなにはこれから、お家の方でも色々と大変な思いをさせるかも知れませんが、どうか落ち着いて、困った事があったら何でも先生に相談して下さい」
僕は大丈夫だ。
そんな事で困ったりしない。
見たところ、先生の方が大丈夫でなさそうだ。
僕が先生の相談に乗ってあげてもいいくらい。
ちゃんと分かってる。
家に帰ったらまず、
「お父さんただいま! 」
って元気に言えばいいだけなんだ。
最初のコメントを投稿しよう!