プロローグ

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プロローグ

   照り付ける日差しがジリジリと肌を焼く。海鳥の声と潮の匂い。ここは海の上。24名の学生と艇長を勤める教官の計25名が、カッターと呼ばれる細長い木造船の上に座している。 「櫂そなえ!!」  艇長の号令に、天を仰ぐように起立していた12本の朱のオールを海面と水平に下ろした。長さ4メートル、重さ11キロ。保持するだけでも中々に筋力を必要とする。 「用意!!」  保持する両手を前方に突き出し、次の号令に備えた。横目でブレードの角度が海面からおよそ20度程度に傾いてることを確認する。 「前へ!!」 「「「そーりゃっ!!」」」  海面にオールを入れ、全身に力を込めてオールを引く。文字通りの全身全霊だ。  連日の練習により、全身の筋肉痛と手の豆が悲鳴を上げているが、漕がないわけには行かない。「一漕入魂」と書かれたTシャツを身に纏う艇長が鬼の形相で号令を続ける。 「うわっ!!やべっ!!」  前の奴がオールのブレード角度を海面に対して直角に近い角度で入れたらしく、オールに身体が持ち上げられ掛けた。隣のバディがブレード角度を速やかに直して助けてやる。  推進力は人力のみだが、かなりの速力だ。無我夢中で漕ぎ続ける。  海上自衛隊、海上保安庁、そして全国の水産高校において、シーマンシップを学ぶ上で必修科目となっているカッター競技。かつては救助艇としての役割を担っていたが、指揮者の掌握下に入り一丸となって船を運行する船乗りにの基礎の基礎がそこに詰まっている。最も、今この場でその真髄を理解している者は教官を含め極僅か。皆痛みに耐えながら全身で漕ぐことがやっとであった。  
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