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「キッチぃ…だり〜……」
「シーブリーズ持ってね??」
「2枚やるから、後で一本恵んでくんね?」
福岡全土から集まったクセ者達も、カッター訓練後のHRまでの時間は流石に大人しくなる。ある者は机に突っ伏したまま動かず、ある者は鞄で隠しながらSNSに愚痴を溢し、ある者はスポーツドリンクを浴びるように飲んでいる。
テーピングを巻いた自分の手を死んだ目で見詰めながら担任がくるのを待った。
「オイオイオイオイ目が死んでんなお前ら!いつもの元気はどうしたんだよ!!」
ダミ声を響かせながら真っ黒に日焼けした顔をニヤつかせて俺達の担任、松浦先生が入ってきた。
「あんなんやらせて元気あるわけなかろうが!!」
「自分漕いでねーやろ!」
生徒から野次が飛ぶ。
「元気だなお前ら!HR始めんぞー起立!!」
気怠げに起立する。
ノリの軽さとテンションの高さから絶妙にウザがられつつも、なんだかんだでクラスの不良達も言う事を聞く担任。聞けばどうやら海猿的なとこに居たらしい。実習中にふとした瞬間に見せる「圧」に、察するヤツは察していた。
気怠げなHRが終わり、下校時刻になる。あるヤツは部活へ、あるヤツは補講へ、あるヤツは遅刻や服装違反、喫煙が見つかって反省文を書かされに行っていた。もっとも、未成年喫煙なんかこの学校の8割方のヤツはやってる。校舎裏の陰ってる部分に行けば頻繁に見かける。俺達は隠語で「スパスパ体操」とか呼んでいる。
体操服の所に立て掛けて置いてた釣り竿(私物)を持って敷地内の堤防に向かった。
この学校、福岡県立水産海洋高校は福岡県唯一の水産系高校として、福岡県福津市北西部の半島、津屋崎半島先端に居を構える。敷地の大半は埋立地であり、学校の真横は直ぐに海という立地の良さから、カッター(短艇)、養殖、漁業、潜水、マリンスポーツ等といった、普通の高校では実施できない教育科目を学習出来る。学生の中には釣り竿を持って登校する者もチラホラ居た。なんなら自分もその一人。放課後は敷地内の堤防から釣りをするのがちょっとした楽しみである。
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