プロローグ

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「次はー、福間。福間です。福間の次は東郷に止まります」  朝イチの鹿児島本線の混雑ぶりは、まだ始まったばかりの1日の体力をゴリゴリと削っていた。通勤客でごった返す、博多方面へと向かう下り列車はもちろんのこと、小倉方面の上り列車の混雑ぶりも溜まったものではない。  福間駅で下車し、駐輪場に停めていたチャリで学校に向け漕ぎ出す。潮風の影響で既にあちこちが錆びていた。そろそろ手入れしないとマズい。道中、照り付ける強烈な日差しと蝉の声が否応なしに不快感を強めていた。今日の授業、「水産海洋実習」は嫌でも体力を削られるのだ。本当に勘弁してほしい。  福間駅から北上し、某アイドルグループのCM、光の道で一躍有名になった宮地嶽神社の参道へと繋がる道と住宅街を抜け、オーシャンビューの広がる海岸線を走れば津屋崎半島にある学校へ辿り着く。海鳥の声と潮騒、波によって路面に打ち上げられた海藻が腐敗する匂いが「帰りたい」気持ちを増幅させた。    「なんねそのチャリは!!!!」 「せからしぃっちゃコラ!!カッコぇやろ!!?」 「なんコレ!!!!ださかろーもん!!!」  正門前で生徒指導の教員と生徒が喧々轟々の指導と応酬を繰り広げ、冷ややかな目線を送る生徒と、指導されている生徒を冷やかす他の生徒。毎朝の光景だ。指導されていた生徒のチャリは如何にも適当に塗ったような真っ赤の塗装に真っ赤な背もたれが付いていた。 「お前の親父の方がもうちょいマシなチャリ作ってきよったわ!!!!後で指導室来い!!写真見せたるわ!!」  この学校は親子ニ代で世話になってる生徒も決して珍しくなく、親子二代で一人の教師にシバかれてるケースもザラだ。ただでさえアホが多い福岡県の公立で最もアホな高校ではあるが、県唯一の水産系高校であるという点、就職率驚異の100%という点から、なんだかんだで入試の倍率はそこそこ高い。  HRまで机で朝飯を食べていたが、横の席の奴、戌峰拓磨(イヌミネ タクマ)がまだ来てない。朝早くから校舎裏堤防で釣りしているのだろう。  案の定HRのチャイム5秒前ぐらいに帰って来た。  HRが終わり、午前中の課目、水産海洋基礎2のため、プールに移動する。   
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