8話 塔の魔術師と騎士の献身・終

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 フレンを引き寄せてベッドへと共に倒れ込む。俺を潰すまいと腕をついているのでフレンの体重が全て乗るわけではない。  もっと隙間なくぴったりとくっ付いてくれてもいいのに、と思う。 「エーティア様……」  期待と、そして心配が半々に混ざった瞳がこちらを見下ろす。 「体はお辛くありませんか」 「平気だ。それよりもお前と触れ合いたい」  ここまで言えばもう後の言葉はいらなかった。  フレンによってぎゅっと抱き締められる。隙間なく体がくっ付き合って、満足感から吐息が零れた。零れた吐息を拾うように口づけが落とされる。  それから親指が唇の上に乗って、なぞるように触れてくる。口を開けるよう促されているのだ。  口を開いてフレンの舌を迎え入れる。舌の表面だけでなく上あごも含めて口の中全てをまさぐられる。官能を煽られる触れ合いだ。  口づけを交わす合間にするすると衣類が剥かれていく。  唇だけでなくて首筋や胸への口づけと共に最後の下着を脱がされてベッド下に落とされると、期待と興奮で兆しきっている自身の性器が現れた。  太腿を開かれて秘所が更にあらわになって、その部分をじっと見つめられているのを感じて顔に熱が集まる。 「濡れていますね。とても綺麗です」  そんな訳ないだろう。  触られてもいないのに、先走りでみっともなくびしょびしょに濡れていて自分でもどうかと思う。  だけど炎のようにゆらゆらとフレンの瞳に欲情が灯っているのを見ると、お世辞を言っているようには到底思えなかった。  何度となく体を重ねているのに、重ねれば重ねるほどにどうしてなのか以前よりもずっと恥ずかしさが増していく気がする。  大きな手で性器を包まれたのでいつものように扱かれるのかと思いきや、身を屈めたフレンによって先端を舐められる。  まったく想定していなかった事態にビクン、と体が大きく跳ねた。 「……ぁっ、そんなことしなくていい……」  以前この行為をされた時には、強すぎる刺激が恐ろしくて足をバタバタとさせて「嫌だ」と抵抗したらそれ以上されることはなかった。 「い、嫌だっ……」  だから今回もそうだと思ったのに「嫌です」と逆に言葉が返された。 「………!?」  聞き間違えなのか。  今、嫌だと言ったのか!? フレンが?  驚きすぎて口をぱくぱくと開け閉めする。 「俺のワガママを聞いていただけるのなら、どうかこのまま続けさせてください」 「う、く……」  フレンは滅多に自分の意思を押し通してくることがない。  愛する番にそうやって乞われて断れるわけがないのだ。  だが…だが……。  慣れない刺激に喉の奥から唸り声が漏れる。 「う、うぅ~~~~」 「絶対に無理はさせないし、痛い思いもさせません」  自身も欲望を覚えて早く繋がりたいと思っているくせに、俺が許可を出すまで辛抱強く待ち続けるつもりのようだ。  覚悟を決めておずおずと頷いた。 「分かった……」 「ありがとうございます」  茎の裏側の部分をつつっと舐められると早くも許可を出したことに対する後悔の念がどっと溢れ出して来た。  これはまずい……。  刺激を受けて張りつめた性器が端正な男の口の中に呑み込まれていく。それはひどく淫らで背徳的な光景だと思った。  性器が温かくて、柔らかいものに包まれる。  手淫とはまったく比べ物にならないものだった。  口に含まれたままぴちゃぴちゃと舌でもって舐られる。 「ひ、あ……ぁ」  じゅっ、と性器を吸う音が鼓膜をも犯してきて、堪え切れずに悲鳴ともつかないか細い喘ぎ声が零れ出た。 「ん、あ……っ、お、おかしくなる」  気持ちが良すぎて、それがひどく恐ろしく思えて助けを求めるように左手をフレンの方へ伸ばした。安心させるように指を絡めて握られて恐さが薄れていく。  だけど体の奥深くから込み上げてくる射精感は変わらずだ。 「あっ、駄目だ、出る…から……っ」  ぎゅっとフレンの手を握る。  出るから口を放してくれ、そう言ったつもりだったのにフレンは口に含んだままの性器を放してくれず、それどころかむしろ強く啜ったのだ。 「……う、ンン……ッ」  びくっと体が震えると共に、あろうことかフレンの口の中に精を放ってしまった。 「あ…、あ……」  吐精の余韻で頭がしばしぼうっとするが、こくりと喉を上下させるフレンの姿を見て顔が青ざめていく。 「な、なん、何で飲むんだ」  それはたぶんそういうものじゃない。性の知識に疎い俺にだって分かる。  おそらくひどい味がするであろうそれを飲み下しているのにフレンの表情は爽やかなままで、それでいて色気を伴っている。  何で顔色が一切変わらないんだ。 「あなたの味がして美味しいです」 「そう、なのか……?」  え、そうなのか? 本当に?  迷いもなくきっぱりと言われると、そういうものなのかもしれないと思う。とても信じられないが……。 「ですが、エーティア様は駄目ですよ。これをするのは俺だけです。俺があなたを気持ちよくして差し上げたいのです」  俺もやってみようかと興味を引かれかけていたが、先回りされて止められる。  何でだ、と解せない思いとまた今度もこれをするのかという恐れおののく気持ちが半々になった。  体が弛緩する。  頭はまだ紗幕がかかったみたいにふわふわとしているが、その中で自分ばかりが服を脱がされていて、フレンは未だ衣服を身に纏った状態なことに気付いた。  服の裾を引っ張る。 「フレンも脱いでくれ」  そこでようやくフレンも自分が服を身に纏ったままであることに気付いたようで、もどかしそうに釦を引き千切らんばかりにして脱いでいく。  現れた裸身は鍛え上げられていて胸板も厚く、どこもかしこも引き締まっていて惚れ惚れするようなものだった。  どれほど鍛えたのか、そしてそれは自分のためでもあると思うと胸の奥が熱く疼く。  それから興奮して天を向いている欲望の証も見つけて、愉悦が込み上げる。 「ん……もういいぞ」  すぐに繋がりたくて太腿を開いて見せるが、フレンは首を横に振った。 「まだです。もう少し準備をしてからにしましょう」  後孔に指が沈み込んでくる。そこはもう柔らかくなっていて、すぐにでもフレンを受け入れることができるというのに、まだ入れてくれないらしい。 「あなたに少したりとも痛い思いをさせたくありません。それに、もっとエーティア様を可愛がって差し上げたい。艶やかに色づくこの部分も……」  空いている方の手が俺の胸の先っぽに触れる。  先程達したことによって、赤く色づいてその先端も腫れたように膨らんでいる。指でなぞられるとチリチリとしたもどかしい刺激が伝わってきた。  そして反対側は唇で甘噛みされる。こちらはもっと強い刺激。  乳首を甘噛みされて、舌で舐られて……それに弄られているのは胸だけではない。長い指がずっと後孔を出入りしている。そんなことをされていればあっという間に股間のものが力を取り戻す。 「ぁあっ……あ、あっ」  指でこりこりと腹の中の突起を擦り上げられてはたまらない。軽く達してしまったのか、自分の意思とは関係なくきゅうきゅうと腹の中が収縮してフレンの指を喰い締めているのを感じた。  自身で流した透明な粘液がとろっと腹に落ちてきて、それと一緒にはぁ、ふぅと息を吐いた。  柔らかくなったのは後孔だけじゃない。体もだ。  ぐにゃぐにゃになってこのままだと溶けて消えてしまいそうになる。  瞳に涙の膜が張って、鼻をぐすぐすさせながら懇願した。 「フレン……もう、入れて……ぅっ」 「――――……っ!」  フレンが何かを堪えるように眉間に深い皺を寄せた。 「可愛すぎます……エーティア様。そんな風に言われたら我慢出来ません」  堪え切れなくなった様子のフレンによって、今度こそ体と体が繋がり合う。  狭い肉を割り開かれ、徐々に徐々に奥へと入り込んだ陰茎によってお腹の中が隙間なくみっちりと埋められる。 「苦しくはないですか?」 「あ、あぁ……気持ちいい……んん……」 「……良かった」  フレンは微笑み、剛直を咥え込んでいる俺の腹を撫でた後で、ゆっくりと腰を揺すりだした。  ぬちぬちと動き出したそれで腹側の敏感なところを押し潰され、ビリビリとした快感が爪先から頭辺まで駆け抜けていく。 「んっあっ……!」  太腿の内側が震えて思わずフレンの両脇腹をぎゅうっと挟んでしまう。  弾けるようにあっという間に二度目の吐精を迎えた。フレンの腹は俺の吐き出したものでうっすらと白く濡れていて、それがつぅと垂れて流れて行くのが見えてしまって羞恥に頬が染まった。 「俺もとても気持ちがいいです。あなたの中は温かくて……柔らかい」  逞しい腕が絶頂の余韻に震える腰に回され、強く固定される。しかし痛みは全くない。  まだ一度も精を吐き出していないフレンは快楽に塗りつぶされているはずなのに、こんな時ですらこの男は俺を傷つけまいと振舞う。  それでもやはり苦しいのだろう、吐息が熱い。  今度はもっと深い部分まで繋がり合う。 「は、はぁ、あ……っ」  奥のとても深い部分をズンズンと突かれて脳が甘く痺れていく。  果ててしまいそうなほど気持ちがいいのに、先程達してしまったせいか性器の先端からは申し訳程度に透明な液が漏れただけだ。  ぐっ……ともう一度性器が押し込まれると共に唇を塞がれた。  フレンの白い魔力が流れ込んで来て、乱れる息を整えながら必死で舌を舐め返す。  俺にとってはもうこの魔力こそが自分のもののように思える。  一つになって溶けていくこの感じがたまらなく好きだ。 「……はっ、フレン、好きだ……。愛してる」  言葉と共に涙が落っこちて、それを受け取るようにフレンが唇で拭った。 「俺もあなたを愛しています」  一番奥に性器を捩じ込まれ、びくん、とフレンのものが脈打ったとき、俺もまた共に果てた。  二度と離れまいとするように指と指と絡めて手を握り合ったまま―――。
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