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「あ、あっ……んん」
フレンの指先は下着の中に入り込んで、俺の性器の先端を撫でる。割れ目を親指の腹でゆっくりなぞられて、鈴口からは蜜が滲み出てきた。くちくちと濡れた音は耳をも犯してくる。
じんわりと気持ちがいいのに、決して射精には至らない。
もどかしくてじれったい刺激。頭を甘く痺れさせて体をくねらせる俺をフレンは押し黙って炎の灯った瞳でじっと見つめる。
甘くてやさしい狂おしくなるようなこの責めは、わざとに違いない。
「うぅ……いじわる、だな……」
「いじわるですか?」
心外だ、とでも言うように問い返して来た。
「そうだ。先端ばかりを触って……。い、いつもと触れ方が違う。意趣返しのつもりか」
「そんなつもりはありませんが、気のせいでは?」
しれっと答える。
「それに、充分感じているように見えますよ」
「く……っ」
下着やフレンの指先は俺の零した蜜で濡れている。フレンの指摘に頬がカーッと熱くなってくるのを感じた。
やはりいじわるだ。絶対に、いじわるだ。
アゼリアによって精神操作を受けていたフレンが重なる。あの時も少しフレンはいじわるだった。
嫌だ出来ないと言っているのに自慰をさせられた。その時に似た雰囲気を感じる。
あの時のフレンは俺を怯えさせたり嫌な思いをさせたくないから遠慮していると言っていた。
これはもしや遠慮が無くなったということなのか。しかしこんな蛇の生殺しみたいな状態で居続けるのは耐えられない。
「うぅ……もう、早く、入れていかせてくれ!」
とうとう耐え切れず声を上げた。
最初の方こそ丁寧にほぐされていたが、フレンのものを腹の中に呑み込まされて、それが馴染んできた辺りから遠慮というものが無くなった。
自身を俺の中に刻み込むように幾度も突き込まれる。激しくて深い抽挿に頭がくらくらした。
それと同時に触られて気持ちのいい場所は余すところなく、撫でられ、舐められ、肌にはいくつも吸い跡が残される。
執拗、という言葉がぴったりだ。もうどれぐらいこの行為は続いている?
すでに時間の感覚が分からなくなっていた。
「これほどあなたを求めている俺が……どうして変わってしまうと思うのか……疑う余地も起きないほどたくさん愛を伝えないと……」
何だか恐ろしいことを囁いてくる。
もう充分すぎるほどにフレンからの愛が伝わって来た。
「んん、あ、あ……っ」
快楽を体中に叩き込まれて体が震える。
このままだと明日は起き上がれなくなる。
精が放たれフレンの欲望がずるりと抜かれたタイミングで、咄嗟にうつ伏せになって這うようにして逃げ出す。
「も、もう無理だ……」
しかしちっとも進まないうちに腰を掴まれた。
「ひっ……!」
「逃げないでください……。あなたが言ったんです、いかせて欲しいと」
欲望で掠れた色気のある声が落ちてきた。
「もう何度もイッてる……あ…、あ……」
今度は後ろから硬さを保ったままの性器が押し込まれる。後孔からとろとろと精液が伝い落ちて、その刺激に体を震わせた.。
「う、んン……」
後ろから交わるのは普段はほとんどすることのない体位だ。
以前フレンは俺を後ろから押しつぶしながらするのは「何だかとてもいけないことをしている気がします」ともごもごと恥ずかしそうに口ごもってしまったことがある。生真面目なフレンらしい。
それよりも顔を見ながらする方がいいらしく、いつもは見つめ合いながら抱き合って、次第に俺の方が眠くなって終了する。
きっと色々としたいことはあるようなのだが『俺に無理をさせない』これを第一の信条としているようだった。
ところがだ。
今日のフレンは『絶対に逃がさない』これを前面に押し出して来た。
鍛えられた男に後ろから圧し掛かられれば非力な俺では太刀打ちできるはずもない。
「あ、あっ、ン、あぁっ……!」
怒りやら嫉妬やら色んな感情が混ざり合っておかしくなっているのではないだろうか。絶対にそうに違いない。
だが、本当に嫌だったらとっくにフレンを魔術で吹き飛ばしている。
「エーティア様、愛しています……」
執着の滲む重々しい愛の告白をして、背中に唇を落とされる。
その重たくてたまらない愛が嬉しくて仕方がないと思うのだから、俺も大概だ。
フレンによって腰を押さえられているが、体に力が入らなくて腰をシーツに落とす。それはまるで背骨が抜けてしまったかのようだ。
ふにゃふにゃとシーツの海をたゆたっていると、体の下にクッションが差し込まれた。
カッと目を見開く。
これは、俺のクッションだ!
そういう用途のために買った訳ではない。あくまでもフレンと共に寝っ転がるためのもの。
汚れないよう抜き取ろうとしたが、抽挿を再開されてそれは叶わなかった。
「ぅ、あ、あ、あっ‥‥…」
咄嗟にぎゅうっと体の下にあるクッションに抱き着く。すると何とも言えない充足感が生まれるのを感じた。
この体位の難点は抱き着くものが何もないことだった。それがこのクッションがあることによって解決された。
クッションによって下から、フレンによって上から挟まれることによって正直言ってすごくいい。
「う、あ……!!」
ここまでの間に何回か精を吐き出してしまって、もう力を無くしていた自身の性器が硬くなるのを感じた。
このままでは確実にクッションが汚れてしまう。それはまずい。ぶるぶる体を震わせながら何とか肩越しに振り返る。
「あ、あ、フレン、も、駄目…ヤダ……っ」
「………ッ!」
「えっ…!?」
駄目、と言ったのに何故か腹に入っているフレンのものは硬く膨らむ。
「何でぇ……」
「エーティア様、それは……申し訳ありませんが……、止められません」
ふーとフレンの息が荒くなる。
「あ、あぁあ……ッ」
「あなたが煽るからいけない」
何も煽った覚えなどないが、俺は知らぬ間にフレンの何かを刺激したようだ。
ぐちゅぐちゅ音を立てて奥へと突き込まれる。その勢いでクッションに陰茎が擦れて切ない刺激が生まれた。
「あ、イク、やだ……もうこれ以上イキたくないってぇ……」
弱々しく掠れた声を上げて抗議したのに、腰の動きは止まらないどころか激しさを増す。
何でだ!
「ふ、う~~~っ……!」
目の前が白く光った瞬間に、ピュル、と性器が震えてクッションに白濁がかかるのが分かった。
ああ、俺のクッションが……!
体は重くてだるいが、最後の力を振り絞ってクッションを綺麗にする魔術をかけた。
「エーティア様……?」
いきなり魔術を使ったので、不思議そうなフレンの声が背後から聞こえる。
「良かった…綺麗になった。これは、とても大切なものだ……」
クッションは綺麗になって、変わらずふかふかの手触りだった。
安心したためか、疲れすぎたせいか、とにかく色んな要因が重なって、ひどく眠くなってきた。
気が付けばすうっと瞼が落ちていった。
***
朝になって目覚めた時もまだクッションを抱き締めたままだった。その上後ろからフレンに抱き締められているという状態。
つまりクッションを抱える俺を抱えるフレンという構図が出来上がっていた。
何とまあ不思議な光景だ。
柔らかなクッションの感触がたまらず、ぎゅっと抱え込んだ。
「エーティア様、このクッションは一体どうされたのですか? 大切なものとは……」
俺が起きたことに気付いたのだろう。背後から声が掛かる。
「気になるか、これが!」
くるりと体の向きをフレンの方に変えた。
「はい。大切そうにずっと抱えていたので」
フレンがこのクッションのことを気にしていると分かって、自然と唇の端が持ち上がるのを感じる。
「そうか、そうか。このクッションはとてもふかふかで良い手触りだったからシュカル皇国の宿屋で譲ってもらったんだ。塔の寝具を新しくして冬に備えようと思っている。安心しろ、もちろんフレンの部屋のもだぞ。エギル用のものもある。これと同じものだ」
自慢気に話していたがふとその最中に冷静さを取り戻した。
俺にとってはこのクッションが今までにないほどふかふかの手触りだと思ったが、考えてみればフレンは王子だ。
城にあるクッションはこれよりもずっといいものを使っているのでは……?
過去の世界でフレンの部屋に行ったことがあったので、そのことを思い出してみようとするが、駄目だ、あの頃はクッションになど興味が無くてまったく覚えていない!
何だか急に自信が無くなってしまった。
「もしかしたら、お前はこれよりもいい手触りのクッションを知っているかもしれないが……」
もごもごつぶやいていたら、抱えていたクッションにフレンが手を触れた。
「俺にも試させてください」
「あ、ああ」
「大きいので二人で使うのに丁度いいですね」
「……そうなんだ! 俺もそう思っていた」
二人でクッションに頭を預けて寝転がる。頭が心地良く沈み込んだ。俺はこれをやりたかったんだ。
すごくいい。胸が満たされた気持ちになる。
温かい。
フレンとパチリと目が合って、その目が柔らかく細められた。
「エーティア様が選んだこのクッションはすごくふかふかで、温かいです。こんなに素晴らしいものは初めてです」
「そうか……! 気に入ったのか」
「はい、とても。エーティア様が俺のために準備してくださったのが何よりも嬉しく思います。塔で使うのが楽しみです」
塔の改装が終わるまではもう少し時間がかかる。その時が楽しみだった。
***
のんびりとまどろんだ後で皆が集まっている部屋へ行くと、サイラス達は茶を飲みながら談笑していた。そこにはエギルも一緒にいる。
エギルはこちらへ来ると「仲直りしたですか! ぼくいい子で待ってたです」と弾むような声を出した。
抱き上げて柔らかい毛を撫でると、エギルがにこにこと満面の笑みを浮かべた。
「思いの外、暴れなかったな! 朝起きたら屋敷が潰れていなくて良かったぞ」
わはは、とサイラスが笑う。
俺が魔術を使って部屋をめちゃくちゃにするとでも思っていたのか。失礼な。
フレンがサイラスに向かって頭を下げた。
「すみません、色々とご迷惑をおかけしました。壊した扉のドアノブは後で修理させていただきます」
魔術というのは万能では無くて、ちょっとした傷や汚れなら綺麗にすることが出来るが、壊れてしまったものを直すことは出来ない。
あそこまでドアノブがぽっきり破壊されていたら修理をするしかないのである。
「いい、気にするな。エーティアがここに来た時にそうなる予感はあった。ドアノブぐらいだったら屋敷の者が修理出来るだろう。一時はどうなることかと思ったが、話がまとまったみたいで良かったな? もう俺に対して怒ってないか?」
「はい……お騒がせしました」
フレンが恥ずかしそうに返事をして、再度深々と頭を下げた。
「俺も、感謝している。色々と……」
いらついて八つ当たりのようなこともしてしまったし、サイラスを頼ったことでフレンの怒りを奴にまで向けさせてしまった。
「ふは、随分と殊勝な態度だな。俺達は仲間なのだから、助け合うのは当たり前だろう。気にするな!」
サイラスは微塵も気にした様子もなく、明るく笑った。
「それにしてもエーティアさんのことになるとフレン王子はけっこう過激派なんだな。ドア破壊の辺りはすげー面白かった! 結界もあんな簡単に破っちゃってさあ。流石に俺でもエーティアさんの結界は破れないもん」
「あっ、リーレイ、しーっしーっ!」
リーレイがぽろっと零して、フェイロンが慌てて人差し指を自身の唇に押し当てる。
とても聞き捨てならない言葉だ。
「おい、お前達覗いていたのか!?」
あのやり取りを見られていたのだろうか!?
じわじわと頬に熱が集まってくる。
「あ、ヤベ。だってつい面白そうだから見たくなるじゃん? でも大丈夫だって、見てたのは結界を破った辺りまでだから。その後は見てないから。扉が閉まっちゃって、あー何か始まったなーって気配がした辺りで帰ったから安心して。流石に俺もそこまで無粋じゃないし」
「何かって何が始まったですか?」
膝の上のエギルが純粋な瞳でリーレイを見上げて首を傾げた。
俺は無言で魔術を放ちリーレイの口を開かぬように縫い付ける。その口の中に転移させた激辛香辛料を入れるというおまけ付きだ。
「ふ……むぐー!!」
リーレイは顔を真っ赤にして床に転がって足をバタバタさせた。
「もう、僕は止めたのに。リーレイは自業自得だよ……」
呆れ返った声をフェイロンが上げた。
「それはそうと、窓の外は見たか?」
サイラスに促されて窓の外を確認する。
空からは雪が降っていた。
大雪ではないものの、この雪は恐らくイライナが降らせているものに違いない。
イライナの悲しみは未だ終わっていないのだ。
「どうすれば良いのだろうな……」
あの者の姿は、フレンを失った俺が辿っていた未来だったかもしれないのだ。放ってはおけない。
「見つけましょう。雪を止める方法、彼女が幸せに生きられる道を」
「ぼくもお手伝いするです!」
フレンとエギルの言葉にサイラスが続く。
「俺も手伝おう。勇者として泣いている女性を放っておけないからな」
「そもそも解決を依頼したのはこちらですから、僕達も最後までお付き合いします」
「ふぐむぐ」
最後に唇を腫らしたリーレイもうんうんと頷いた。
解決はとても難しい問題だと思うのに、不思議とこのメンバーがいれば何とかなるような気がしてくる。
「そうだな。必ず見つけるぞ……その方法を」
この重たくどんよりとした雪雲を消し去って、晴れた空を取り戻してみせる。
END
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