1話 塔の魔術師と騎士の献身

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 剥き出しになった首筋に舌が這い、次に胸の突起を吸われれば、昨夜体を繋げた快感を思い出した後孔は柔らかくほぐれてフレン自身を飲み込んでいく。  だけど最初に押し入られる瞬間は少し苦しくて息を詰めてしまう。 「……ふ……ぅっ」  奥が鈍く痺れて、フレンのものが到達したことを知る。 「申し訳ありません……。今日は、少し、加減ができません」  苦し気に息を吐き出すフレン。その言葉通りに中を穿つ動きは、先程の口づけ同様に性急だった。粘り気を帯びた水音が響き、腹の中がじくじくと熱くて重たくなっていく。 「お、まえ、魔力が……っ」  奥を穿たれる度に、フレンの魔力が俺の中に染み込んでいく。それはこれまでもらっていた量よりもずっと多い。 「やはり口づけよりもこうして体を重ねた方が魔力をたくさん注げますね」 「あ…、ふ……」  頭の奥がとろりと溶けていく。これはいわゆる魔力酔いだ。  いつもよりずっと強い。魔力を注がれながらする性交は気持ち良いが、その更に上の状態があるなんて知らなかった。  俺の性器は硬く張りつめていて、フレンが動く度にその引き締まった腹筋で擦られる。滴った蜜が互いの腹を濡らしている。  フレンの魔力が全身に浸食していき、体が作り変えられていく感覚に陥る。ぐずぐずと視界が揺れた。 「も、いい……、いらな、ぁ」  ベッドからずり上がって逃げかけた腰が、フレンによって掴まれて引き戻される。その衝撃でパン、と音がするほど深々と埋まる。  強すぎる快感に体が強張り、首を横に振る。 「や、ぁ……」  逃がすまいと執着の色の濃く浮かぶ瞳で見下ろされる。こんな目をする男だったのか。知らなかった一面が頭の中に深く刻み込まれる。 「あ……あぁ」  胸の奥がキュウ、と苦しくなったと思ったら、体がビクビクと小刻みに震える。  フレンは奥に到達させたまま腰の動きを一旦止めて、俺を強く抱き締めた。 「エーティア様、怖がらないでください。これはあなたを傷つける力ではありません。俺の魔力で満たし、気持ちよくしてさしあげたい」  頭を撫でられ、額に唇を落とされ、はっ、はっ、と乱れていた呼吸が整っていく。子供扱いをされている気がしなくもないが、不思議と落ち着く。 「分かっ…た……、続け…ろ」  動きたくてたまらないだろうに、辛抱強く俺が落ち着くのを待つフレンはその言葉を聞いて動きを再開させた。 「んン…ッ、フ、レンぁ……」  傷つけられないと分かってはいるが、だからといって与えられる快感が減るわけもなく、漏れ出る声は抑えられない。  フレンは性器が抜ける寸前、ぎりぎりまで腰を引いた後で再びずぷぷ…と埋め込んできた。押し出されるように喉から吐息が零れる。気をやってしまいそうで、頭の下の枕を握りしめて耐える。 「んん……」 「魔力に酔うエーティア様は、可愛らしいのに煽情的で……俺の忍耐が試されているようで目のやり場に困ってしまいます」  目のやり場に困ると言いながら、ゆらゆら揺れる視界に映るフレンは視線を一切外さず食い入るようにこちらを見つめている。  その強い視線に体の奥が疼いて、そっと視線を外す。  視線を戻すことを促すように、性器にフレンの大きい手の平が這い、蜜を滴らせたそこをぬちぬちと扱きあげられる。  どこをどうすれば俺があっという間に果てるか知っているフレンは、弱い部分を責め立ててきた。  腹の中にある小さなしこりを擦られる。 「ふ、うぅ……そこ…」 「はい、ここを擦りながら奥を突かれるのがお好きでしたね」  こくこくと頷く。腰が自然と揺れてしまう。  快楽に流されこんな時ばかり素直に従う俺が面白いのかフレンがくすっと笑った。  片足の膝裏を押し上げられてその分だけ深く性器を食いこまされる。奥をゴン、と突かれたらもう駄目だった。腰が跳ねあがる。 「ん、ふ、あ、あぁああ……っ」  俺自身を握り込むフレンの手の平に白濁を散らした。それを追いかけるようにフレンもまた達した。じんわりと腹の中が温かく濡れていった。  ***  魔力供給を終えた後は、俺の体を清めるために早々にベッドを抜け出していくフレンだったが今日は違った。「ここで寝ればいい」と引き止めたせいもあるだろう。告げた時には嬉しそうな顔をして抱き寄せられた。  人の気配が気になって眠れなくなるかとも心配したが、そんなことは全くなかった。ぐっすりだ。  そして目が覚めた時にもまだフレンは隣にいて、固く抱き締められていた。  すでに起きていたらしいフレンは、俺の目覚めに気付くと「おはようございます、エーティア様」と昨夜の乱れきったまぐわいが嘘のように爽やかに微笑んだ。  朝から眩しく感じる。  寝た時は裸だったはずなのだが、今はシャツをしっかり着せられている。フレンも同様だ。ふわぁ…と欠伸を漏らす。 「わざわざシャツを着せてから寝たのか。律儀な奴だな」 「俺も男ですから、朝起きて裸でしどけなく眠るエーティア様を見たら襲い掛かる自信しかありません」 「は、何だその自信は」  果たしてそれは自信満々に言うべきことなのか? 「うふふ、エーティアさまもフレンさまも仲良しですねぇ」  いつの間にか枕元にいたエギルがにこにこしていた。  黒くて丸い純粋な瞳に見つめられ、この使い魔はどこまで自分達の関係を知っているのだろうかと少々居心地の悪さを覚えて、体をもぞもぞさせる。 「エーティアさま、聞いてください。ぼく、体がいっぱい動かせるようになったです!」  そんな俺の心の内など露知らず、嬉しそうにぴょんぴょんとベッドの上を飛び跳ねるエギル。 「ああ、そうか。俺の体に魔力がたっぷり満ちたから、お前も自在に動けるようになったのか」  エギルは俺の魔力の影響を一番受けやすい存在ともいえる。  飛び跳ねるのを止めて、フレンの膝の上に乗ったエギルは真剣な眼差しで膝の主を見上げて口を開いた。 「これでぼく、働けるです。フレンさま、ぼくエーティアさまの分までいっぱい頑張るので、ぼくたちを捨てないでください」  いまだエギルは俺も含めた自分達がフレンに見捨てられてしまうと不安に思っているようだ。脚がぷるぷると震えている。絵本の影響力、ものすごい。  フレンはそんなエギルをやさしく抱き寄せた。 「エーティア様から話は伺った。エーティア様の体のためを思って歩くよう促してくれたそうだね。君はとても正しい。俺はエーティア様を大切に思うあまり少々過保護になりすぎていた部分があった。そのことにエギルのお陰で気付かされた。感謝している。これからはすぐに抱えるのではなく、お傍で見守るようにしよう」  長い耳をピクピクさせながら、エギルはフレンの話に耳を傾けている。 「だが、これだけは知っていて欲しい。俺はエーティア様とエギルがたとえ動けず何もできなかったとしても見限ることは決してない。それは二人のことを心より大切に思っているからだ」 「フレンさまぁ…ふわぁぁぁん」  安心したのかエギルの目から涙がぽろぽろ零れ落ちていく。  フレンの手は背を震わせるエギルを穏やかに撫でる。 「そしてそれを知った上でなお働きたいと望んでくれるのなら、これからは共にエーティア様をお支えしよう。君が手伝ってくれたらとても嬉しい」 「はい! ぼく、ぼく、フレンさまと一緒に働きたいです‼」  エギルは小さな前脚でごしごし涙を拭いながら何度も頷いた。  こうして世話人を増やすという課題はエギルが働くことによって解決した。  ***  禁術の知識の入った魔術球はいまだ俺の中にある。  このまま魔力供給の治療を続けていけば俺自身の魔力を取り戻す可能性もあるので、現状維持だそうだ。  俺達の生活は変わらない部分もあるし、ほんの少しだけ変わった部分もある。  フレンの魔力が満ちて、体力的に問題なくなった俺はその主に抱き抱えられて運ばれるということはなくなった。  しかしその代わりのように抱き寄せられる頻度は増えた。その流れでどちらからともなく魔力供給関係なしの触れ合いも始まる。  魔力を注がれる時もあれば、注がれずに交わることもある。  結局のところ二、三日に一度程度の性交は変わらず続いている。  あの宴の日、倒れた俺をフレンが抱えて消え去ったことから、心配した勇者が後日塔を訪ねて来た。  しかし……。 「魔力供給は間に合っています。エーティア様はこれから先、俺だけをお傍に置いてくださるそうなので。そう約束しましたので」  フレンは「約束」これを強調させながら勇者を大いにけん制した。  番人のごとく塔の入り口に立つフレンは見えない雷を迸らせて、絶対にそこから動こうとせず、一歩たりとも勇者を塔の中に入れることはなかった。  ちなみにこれらの出来事を知っているのは、塔の中から魔術を使って覗き見ていたからだ。何となく気になって仕方がなかったのだ。  フレンのお陰で、俺はまたほんの少しだけ魔術を使えるようになった。  以前のようにとはいかないが、全く使えなかった時を考えれば満足している。  フレンが悋気を剥き出しにして勇者に対峙する姿は、少々面白かった。フレンは勇者に対しての敵意を隠さない。俺に絶対近づけたくないのだという。  あいつは案外嫉妬深いようだ。どれほど俺が大好きなのだか。  そのことを考えると何故だか胸がそわそわとする気持ちにもなった。不思議な感覚だ。  勇者は、あいつも大概しつこい男なので「また来るぞ!」と言い残して去って行った。勇者が去った後、フレンは外に盛大に塩を撒いていた。  何かの儀式だろうか?  そしてその後一日、珍しくピリピリとしていた。 「塔は入り口が一つしかないので、防衛に向いています」  一時は階段の多さから引っ越しも考えていたが、フレンが安心するようなので引っ越しは止めることにした。変わらず塔に住み続けている。  そして、フレンが大好きなエギルは毎日楽しそうに働いている。  一緒に食事を作るのが特にお気に入りらしく、キッチンからはふんふんと機嫌良さそうなエギルの鼻歌が聞こえてくることがよくある。  俺としても誰とも知れない奴が自分の住処に入ってくるというストレスを抱えずに済んでほっと一安心だ。  フレンとエギルならば住処をちょろちょろ動き回っていても全く気にならないのだ。  奴らの存在は言うなれば空気のようなものだ。ごく自然に傍にあるもの。  そしてそれがなくなれば、俺はあっという間に死んでしまうのだろう。    END
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