2話 あなたに名前を呼ばれたい(フレン視点)

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2話 あなたに名前を呼ばれたい(フレン視点)

※フレンから見たエーティアの話  大魔術師エーティア。  アリシュランドに住んでいてこの名を知らぬ者はいない。  魔王を倒した勇者サイラス様よりもある意味有名なのは、その神秘的で美しい容貌と、長い寿命のためでもある。彼は誰よりも長い間、アリシュランドを守護してきた。  小柄で若々しいので成人を迎えたかそうではないのかと思われるような見た目であるが、実際は百歳を超えているとも言われている。本人にお尋ねしたところで「年齢など忘れた」の一言で片づけられてしまうのだろうが。  エーティア様は白き翼の一族と呼ばれる種族の血を少しばかり継いでいるらしい。  年をほとんど取らない理由はモンスターの一種でもある白き翼の一族の魔力によるものなのではないかとも言われている。  そして魔王による闇の魔力の影響を受けながらモンスター化を逃れたのも、その血によるものだと俺自身は考えている。  最後の魔力で俺を攻撃してきたエーティア様は、ベッドに倒れ込み意識を朦朧とさせている。  ぐったりした小さな体からどんどん体温が失われていく。  身に纏った服を剥いでいくと穢れを一つも知らないような白い裸身が現れた。白き翼の一族の特徴でもある翼はその背にはなく、あるのは滑らかな肌だけだ。人の血の方が濃いのだろう。  しかしその代わりのように、銀色の毛先が薄く青く光っている。どうやら魔力が放出されると光るらしいのだ。神々しさを覚える光景に感嘆の声を上げそうになるが、今はそのような場合ではない。  魔力が放出されているということは、命が流れ出ているということなのだから。  これは拒絶の証でもある。  この方が旅の間中、浄化を受けなかったのは自身の体に誰にも触れて欲しくないと考えていたからだと聞く。  今もまた自分の体の周りに防御の魔術を展開しようとして、だけど魔力が無いので出来ない、そんな状態だ。  眉根を寄せて、荒く息を吐いている。  こんな状態のこの方を抱くことに酷く罪悪感が募る。しかしこのまま放っておいたら命が失われてしまうことは明らかで、もはや一刻の猶予もない。  俺は、エーティア様をお助けしたい。  魔力を失い、悲しみに打ちひしがれてさめざめと泣かれる姿を目にしたあの時、この方をお守りし、ずっと傍で支えようと心に誓ったのだ。  エーティア様の唇に自分のものを重ねて、魔力を吹き込んでいく。  俺の魔力とエーティア様の魔力は質が違うので、体の中で反発が起こらないように慎重にだ。  だが、それは杞憂であった。無意識化であってもエーティア様は俺の魔力が流れ込まないように抵抗しているようだ。思った以上に魔力が入って行かない。そこで舌を差し込んでエーティア様のものと触れ合わせ、その上で流し込むと今度は少しずつ染み込んでいくのが分かった。  エーティア様の体が小さく震えている。自分の中に知らない魔力が入ってくる感覚に恐怖を抱いているのだろう。怯える小さな体を安心させるように抱き締めると、強張ったその体から力が抜けて行った。  魔力が馴染んでいくと共に、目の前にある苦しげだった顔がとろんと気持ち良さそうに蕩けていく。青く光っていた毛先は、元通りの銀色に戻った。魔力の放出が止まったのだ。  俺自身が触れることを許されたように錯覚してしまう。  実際のところ意思はともかくとして、体が魔力を必要としていることに気付いただけだというのに。  魔力の放出が収まり、呼吸が落ち着いたのを見計らってエーティア様の全身を愛撫していく。魔力を失い苦しむこの方に、これ以上の苦しみや痛みを与えたくなかった。せめて意に染まないこの行為が気持ちよさしかないものだと知って欲しい。  胸の先を舌先で転がし、口に含んで吸い上げる。もう片方の胸の先は指の腹で擦り上げると、エーティア様の体がビクビクと震えた。 「………っ」  息を呑む音が聞こえる。無垢な体であるが、素直に快感を拾い上げている。  良かった、これならばそう時間をかけずとも体を繋げて魔力を注ぐことができそうだ。  だが、同時に不安も募る。俺のものが入るのだろうか、と。  特段自分のものが大きいと思ってはいない。それよりもエーティア様が小さすぎるのだ。  体調を崩されてからというものさらに小さくなってしまったようにも見える。強く抱き締めたら折れてしまいそうなほど華奢で頼りない。無体なことは絶対に出来ない。  尻の窄まりに香油を垂らした指をゆっくりと埋め込む。思っていた以上に狭い。それでも何度か中を擦り上げると、エーティア様の性器が兆し始めた。 「ふ……う……」  微かな吐息が唇から零れ落ちてきて、それを聞いた瞬間ずくりと下腹が熱くなる。こんな時だというのに、俺は何という……。欲望のままこの方と繋がりたいなどと……そんな考えを抱いてはいけないというのに。  す、は、と呼吸を整える。  指を引き抜いて、代わりに己のものを宛がう。慎重に中へと埋め込んでいくが、やはりとても狭くて熱い。気を抜いたら果ててしまいそうになる。  魔力を注ぐのが目的なのだからそれでもいいのかもしれないが、魔力供給はこの一回で終わりというものではなくこれから先も続けなければならない。  エーティア様の負担にならないようにするためには、この初めての時が肝心だと思う。嫌な思いをさせて拒絶されたら次からの魔力供給が困難になってしまうのだから。  抽挿を開始すると、エーティア様の閉ざされた瞼が微かに震える。  もう一度魔力を口から流し込む。  するとほとんど意識の無かったエーティア様が手を伸ばしてきて俺の首に巻き付けると、積極的に唇を求めて来た。 「ん、ん……」  口をパクパクと開けながら吸い付いてくる。  魔力を欲しがっているのだと分かっている。分かっている……が、あのエーティア様にこんな風に可愛らしく唇を求められてどうして平静でいられようか。  胸が苦しくなる。  自分が恐ろしく困難な任務に就いてしまった気がしてならない。  エーティア様に魔力供給を行うという役目。だが、他でもない自分がその任務に就くことが出来て良かったと思う。  二番目の兄と騎士団で鍛えられたお陰で、自身の性格が忍耐強い方だという自覚はある。その自分ですら今のエーティア様を目にして理性が焼き切れてしまいそうな有様だ。  もしも俺ではなく他の者に魔力供給の白羽の矢が立っていたなら、今の愛らしく無防備なエーティア様がその者によって欲望のままに傷つけられていた可能性があっただろうから。  そのようなことにならなくて本当に良かった。  エーティア様にしがみ付かれていたので、体をぴったりと付けたままゆるく腰を打つ。 「ん……ぁあ……」  時折意識を失ったり、取り戻したりをしながらも快感を得ている様子が伺える。兆した性器からはとろとろと先走りが流れ落ちて白くて滑らかな腹部をしとどに濡らしている。  やがてエーティア様が微かな呻き声と共に喉を反らした。  体が数度にわたって震え、果てられたのだと知った。  エーティア様に満足していただけたのかどうかは、次の魔力供給の際の声掛けへの反応で分かった。 「次の魔力供給を行ってもよろしいですか?」  問い掛けに対し最初の時のような強い拒絶を示すこともなく、それどころか迷うそぶりもなく、無言のままだったがこくりと頷かれた。  この様子を見る限り、嫌がられてはいないようだ。  魔力供給の時のエーティア様は最初の時ほどではないが時折意識を飛ばされることがある。  具合が悪いというわけではない。  魔力に酔った状態になっているのだ。そして恐らくエーティア様はその時のことを覚えていない。  正直に言うと、魔力酔いを起こしているエーティア様の可愛らしさは格別だ。普段はどちらかというと気だるげで、使い魔であるエギル以外の相手に対しては興味が無いといった感じだが、魔力酔いを起こされると甘えたように唇を求めてきたり、抱き着いてくるので、これは本当に理性との戦いだった。  何度も繰り返すようだが、自分が忍耐強くて良かった。  その一方でエーティア様に触れる内に、こんなことを思うのは間違っていると理解しながらも、少しずつ自身の欲が募っていくのを感じた。  「フレン」と自分の名前を呼んでいただきたいと……そんな風に思ってしまうのだ。  塔に来てから一週間、未だ名前を呼ばれていない。「おい」「お前」以外で呼んでもらったことが無いのだ。  エーティア様が人の名前を呼ばないというのは、随分前から分かっていたことだ。  魔王討伐の旅に出ているエーティア様達は度々報告のためにアリシュランドの王城へと姿を見せていた。勇者サイラス様を始めとする三方が気さくな人柄であるのに対し、エーティア様の他者への態度は冷ややかだ。  誰も話しかけるなという空気を常に身に纏っておられるのだ。  そのような空気を出さずとも、恐れ多くて大魔術師エーティアに気軽に話しかけるような強者はいないわけだが。  しかし、そんな空気をものともしない人物がたった一人だけいた。  それがサイラス様だ。  どんなにエーティア様に鬱陶しがられても、冷ややかに睨まれても全く動じない。彼だけがエーティア様に対して物怖じせずスキンシップを図っている。 「いい加減にしろ、そろそろ消し飛ばすぞ」 「おー、やれるものならやってみろ。勇者の力で返り討ちにしてやる」  他の者が聞いたら震えあがるであろうエーティア様の低い唸り声にも、どこ吹く風だ。  女神の祝福を受け、勇者として選ばれたただ一人の者。  彼だけがエーティア様と対等なのだ。  以前の出来事を思い出し、今更ながらに胸の中がぐつぐつと煮えるような思いが込み上げてくる。  浅ましいことだが、彼とエーティア様の間にある遠慮の一切ない関係に嫉妬しているのだ。  しかしそんな彼に対してもエーティア様は名を呼ばない。「あいつ」または「勇者」としか。  唯一名を呼ぶのは使い魔である「エギル」に対してだけだ。他者を寄せ付けないエーティア様が殊の外大切にしている存在。  人の名を呼ばないのはエーティア様にとって何かしらのこだわりのようなものがあるのかもしれない。  それでも俺の名を呼んで欲しくて、ある時魔力供給の際、意識を半分飛ばしかけているエーティア様の耳元にフレンと呼んで下さいとささやきかけた。  魔力を得ると素直になるエーティア様にこのような行為をするなんて、騎士としてあるまじきことだと自覚している。  だが、どうしても俺は呼んでいただきたいのだ。他でもないこの方自身の口から。 「フ……レ……?」 「はい、フレンです」  ふにゃふにゃしながらも素直に名前を口にするエーティア様。  そうやって何度か魔力供給の際にささやき続けた結果、しがみ付かれながら「フレン……」と名前を呼んでいただくことに成功した。  しかしながらこれは恐ろしく胸を揺さぶられるものだった。心臓が苦しい。  それからは、日常の中でもごく自然と名前を呼んでいただけるようになった。  そうして時間を重ねて行くうちに、エーティア様はご自身のことをぽつぽつと話されるようになった。  白き翼の一族の血をわずかに継いでいるということ、魔力を失った影響で恐らく自分は長命では無くなり、人と同じ寿命になったということを。  それはつまり、俺とエーティア様は同じぐらいの速度で年を重ねて行けるということだ。  その話を聞いた時、さらなる欲が身の内に募っていった。    俺だけがエーティア様の魔力供給役でありたいと。  あの方に触れることを許されるのは俺だけであって欲しいと。  エーティア様の寿命があと数百年も続くものであったら、こんな願いは決して抱けなかったし、抱いてはならぬものだった。  いつか俺ではなく別の者が代わりとなる。  その時胸は千々に乱れるだろうが、あの方が末永く健やかに生きていてくださるのならそれでいいのだと覚悟していた。  だが共に生きられると知った以上、募った思いを隠すことは出来なかった。  サイラス様に魔力供給の話を持ち掛けられていたことを知り、余計に強く思う。  気付けば他の誰からも魔力供給を受けないで欲しい、これからも俺だけを傍に置いていただきたいと告げていた。そしてその言葉を、エーティア様は受け入れてくださったのだ。  次の日の朝になって、起き上がったエーティア様がふふん、と鼻を鳴らした。少々意地悪な顔つきで俺を見上げて来たのだ。 「……言っておくが、この俺を望んだのだから心変わりが出来ると思わないことだ」  エーティア様の言葉に目を瞬かせる。  そのようなことを思うはずもない。しかし俺があまりにもポカンとした間抜けな表情をしていたためか、何を誤解したのか眉を寄せて憮然とした表情で言葉を続ける。 「知らなかっただろうから教えてやろう。白き翼の一族は番と決めた相手だけを生涯愛するのだ。それはもう重たいぐらいの気持ちを押し付けるんだそうだ。まあ、番うんぬんの話は人間の血も入っている俺には良く分からんが、執着心は人一倍強いと自覚している。俺は自分のものを誰かと共有したいとは思わない。過去のことは問わんでおいてやるが、これから先浮気は絶対に許さん。他の女と結婚し世継ぎを残そうなどということは出来ると思うなよ。もしそんなことになったら死ぬまで苦しむ呪いの魔術をかけてやるから覚悟することだ」 「つまり、エーティア様は俺を束縛してくださるということですか」 「は……? 呪いをかけると言っているのに、何故そんなに嬉しそうな顔をするんだ」 「嬉しいですよ。俺があなたを独り占めしたいと思うように、エーティア様もそう思ってくださっているということなのでしょう」 「う……、まあ、そういうことになるの…か?」  エーティア様が首を捻りながら「何か思っていた反応と違うな」とぶつぶつ呟いている。俺にどんな反応を期待していたのか分からないが、ひと時の感情で傍に置いて欲しいと口にしたと思われているのなら心外だ。  恋い慕うという気持ちや番のこともよく分からないと言うエーティア様だが、それでも俺に対して執着の片鱗を見せる。そのことが俺にとってどれほど嬉しいか、どれほどの重たい感情をこの胸の内に抱いているかエーティア様は知らないのだろう。 「束縛していただいても、そのようなことはあり得ませんが万が一心変わりをしたら呪い殺してくださっても構いません。俺の全てはあなたのものですから」  一秒でもエーティア様よりも長く生きて最期までお仕えする覚悟を、俺の思いを、これから時間をかけて知っていただかなければならない。 「ほう、なかなかいい覚悟だなフレン。そういうのは嫌いじゃない」  満更でもなさそうな表情でエーティア様に名を呼ばれて、胸の内にさらなる喜びが降り積もる。  この思いを知っていただく手始めとして、エーティア様の唇に自分のものを寄せる。  魔力が吹き込まれると思っていたらしいエーティア様は、ただの口付けに驚いた顔になった。  魔力供給でも、そうでない時でもただあなたに触れたいのだとお伝えする。 「愛しています」  お慕いしている、それ以上の胸に溢れる気持ちを言葉にのせる。この国における最上級の愛の言葉をエーティア様に告げたのだ。 「お前は……本当に直球な奴だな」  普段照れることのないエーティア様が頬をわずかに染めて視線をうろうろと彷徨わせたので、自分の思いを知っていただく第一歩は成功したのだと思った。 END
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