それでも生きるということ

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それでも生きるということ

 全くの闇の中で、ゾーイ・エバンスは黙考していた。  どうやら、やはり私は人ならざる身となってしまった。  それがどうしたの?我が身を長らえるのが、他ならぬ生物全てが持つ意欲の根幹。  私を殺そうとする力が来たとしても、私は生き延びてみせるわ。  ゾーイは、人知れず、その下半身を蛇に変じていた。  母よ。突然、闇の中から呼ばう声があった。 「なあに?ミザール」  その声に、子に対する愛情は欠片もなかった。ただ呼ばれたので、返事をしたにすぎなかった。 「何故、虫を放ったのか?餌の枯渇を予見し、下の一族達が地上を目指している」  下の一族。ゾーイが飼育していた、雑多な爬虫類系妖魅だった。 「ああね?ちょっと増えすぎたからね?」  深い溜め息が漏れていた。 「愚かなことをなさる。地上は、人間の縄張りだ。必ず、滅ぼされるというのに」 「そう?統率も取れない、ただのトカゲにヤモリよ?それが滅ぼされたからって、何なの?」 「それだけでは済むまい。人間は、必ずここを突き止めよう。敵うと思うのか?人の凶暴性に。生存本能は向こうも同じ、奴等は2000年だ。2000年以上の時を、その欲求によって長らえてきた」 「あら、私だって、その人間だったのよ?ミザール。貴方は私の子よ?私の子の中でも、最も強い個体よ?貴方と、アルコルの威力を゙、知らない私だと思う?」  溜め息と共に、ミザールの気配が消失した。  なまじ、知性が高いのが厄介ね。  知性は想像力を生み、想像力は恐怖を生む。  まあ、流石にゴーマには勝てないでしょうけど。  ねえ、ゴーマ。どうして私は。  ゾーイの蛇体は、とぐろを巻いていた。  ミザールは、ゾーイが生んだ子供だった。  生まれた時から、流血と死に塗れて生きてきた。  ミザールは、太陽の明かりを知らなかった。  兄さん。兄さん。 「フェクダか。どうした?」 「下の一族が、騒がしくてね?地上を目指すんだってさ。僕も、行こうかなあ。人間食べ放題だよ?」 「愚かな真似をするなフェクダ。人間と我等では、経験値が違うのだ。大人しくしていろ」 「だったら、兄さんが人間を拐ってきてくれる?女がいいなあ。散々孕ませてから、飲み込んでやるよ。百鬼姫って女がいいなあ。僕のヘミがいきり勃つよ。きっと百鬼姫なら、僕の精を孕めると思うんだ。もう我慢出来ないよ。ベナトナシュとアルカイドに先を越される前に」  フェクダの気配が消失した。  ミザールは、深い深い溜め息を吐いた。  生き物は、それでも、どれほど愚かでも、生きようとする。最期の一瞬まで。  だったら、何故、我等に命など持たせたのだ。  ミザールは、闇の中で、1人懊悩していた。
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