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発端
ああ。課長、うふふ。
気持ち悪い声を出したのは、さっさと新課長の軍門に降っていた、霊視官の神楽坂千鶴だった。
「課長が言った通り、培養は順調です。うふふ。ブヨブヨしたお腹」
気持ち悪い奴だな。碧は思ったが、それを口にすることはなかった。
最低限の人間としての作法を、両親からちゃんと躾けられていた。
「前にも言ったが、キモさと栄養価は正比例する。ふうん。」
ケージから握ったゴキの、腹を枝で突き刺した。
「頭を潰さない限り、どこまでも再生するようですが」
「だろうなあ。まあ所詮はゴキだ。おい、お前等全員、待避だ。逃げて結界を張れ。そのくらい出来るだろう?ここを、まあ空っぽにする」
その時、勘解由小路碧の、高い危機管理能力が発揮されていた。
置きバズすら躱す、鋭敏すぎる、ニュータイプ的回避。碧は自分をそう評価していた。
「まず、入れる奴は全員入れる。それで滅ぼす。へえ?早速来てるな?まずは排泄物からか。あれも外に出してから行けよ?殿はまあ、あいつだ」
その感知能力。マジでニュータイプ。
神楽坂はけったいなことを思っていた。
碧の指摘の通り、メビウスを咥えていたライルは、そいつの姿を認めた。
「へえ?食った人の皮被ってんだな?爬虫類の分際で。ああ?俺の声聞こえてんのか?変温動物野郎」
グランジ風の衣服を着た、短い髪をツンツンに尖らせた青年に、ライルは言った。
「ぶった斬ってやるから、こい。チンピラ人間もどき」
「チンピラはお前だ。メゲレズが、お前を食う。お前の、皮を寄越せ。チンピラ」
ああん?そう声を上げたライルはまさにチンピラだった。
チンピラ同士の睨み合いが、殺し合いに変るのは、時を待たずに起きたことだった。
カリバーンが、突如火花を散らした。
何が、ライルを攻撃したのか?ライル本人にも見えていなかった。
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