毒蛇小姫

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 それは、まだ双子が5歳くらいの時だった。  晴れた日の勘解由小路家(田園調布)で、空手着を着た母親の演舞を、双子は見物していた。  ナイファンチにサンチン、抜塞大(ばっさいだい)などを見物した。 「双子ちゃんも、どうですか?空手」  タオルで汗を拭きながら、母親は言った。 「僕は、遠慮するよ。空手をやると、空手の型が前に出ちゃうから」 「そうですか」  流紫降くんは、もう既に歌舞伎に取り憑かれているようで。 「碧ちゃんは?やってみませんか?」  碧は、やおら飛び上がって、母親に向かって行った。  跳び蹴りや肘打ち、先ほど見せた抜塞大など、見せた型を全て披露していた。 「簡単じゃんか。空手なんか。私興味ないもん」  そう言って、館に戻っていった。  碧ちゃん。碧ちゃん。流紫降に呼び止められた。 「碧ちゃん、君、もう空手をマスターした気でいる?」 「――あん?だったら何だ?」 「母さんは、見抜いているよ?」 「何を」 「だって、碧ちゃんの動き、あれ、ただの空手の真似事だよ?」  碧は、そこで黙った。 「碧ちゃんは蹴ってないし、拳を打ってもいない。ただ、それらしい動きで、体を動かしていただけだよ」  その時、庭で、 「お疲れ。真琴♡んー♡」 「んー♡」  チュってやって、夫はこう言った。 「碧の奴。気付いてたのかな?」 「ええ。だって、降魔さんの子ですから。少し、残念ですが」 「ああ。あれはただの、高い身体能力にあぐらをかいた、ダンスでしかないってことにな?」 「一般人なら、十分に打倒出来ます。それでも駄目なら――その時は」 「ああまあ、本人が、解ってればいいか。(しもべ)が側にいるからなあ」 「馬鹿を言うな流紫降。私は、勘解由小路家の長女だぞ?護田さんがいりゃあいいだろうが。私が、戦う必要はない」  流紫降は、軽く息を吐いた。  それから、そろそろ3年になる。  同時に襲いかかる2体の蛇蝎に、碧は氷魂の魔眼を向けた。  アルカイドは凍り付いたが、その影から、ベナトナシュが襲いかかった。  「!」  高い身体能力にものを言わせ、碧は宙を舞った。 「やっぱり、雑魚か」  碧は、傲岸に吐き捨てた。 「魔眼ね?似てるわね?ベナトナシュ」 「似てるね?アルカイド」  広い屋上を、碧は少し狭く感じていた。 「でも、私達には勝てないよ?ねえ?どっちに食われたい?」 「この碧様だぞ。正気か?お前等。ん?!」  アルカイドの尾の毒針を躱した碧は、足が、妙に砕けたのを感じた。 「――あ?」 「それが、我々の妖毒だ!」  尾で薙ぎ払われて、碧は階段を砕いて吹っ飛んでいった。 「がふっ」  肋骨をへし折られ、真っ赤な血を吐いていた。 「所詮、お前は自分の才能にあぐらをかくだけの、雑魚にすぎないのよ。」  2対の、魔眼に射貫かれていた。 「分けて食べましょう?縦に切る?横に切る?」 「目は、私が食べたいから、横に千切れば?」 「――あー。」  確かにそうだ。空手なんか、やってこなかった。  私がダラダラ生きている横で、流紫降は歌舞伎を磨き、莉里だって、今やアイドルだ。  正直な話、私、ただママに似てるだけの美少女でしかないじゃん。  こんな、雑魚に見下されて、死ぬの?  何だか、凄く情けなかった。  碧ちゃんは、そのままでいいと思うよ?だって、僕の妹だし。僕は君を守ると誓うよ?  弟はお前だろうが。それに、自分で、1人でここに来たんだぞ?守るなら側に来いよ。ああ、私が拒否したんだった。  新課長だあっとか言って。  あん?姉ちゃんが雑魚い?今更何言ってんのよさ。  ――あ?莉里お前。  ぷぎゃああああああああああああああああああ!屁こき女が襲われた!プップ言いながら逃げてりゃいいのよさあああああああああああ!そうだろう屁たれ。  ――おい。おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!  引き千切ろうとしたアルカイドが、 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」  突如、悲鳴を上げて身を捻っていた。  
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