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 よく晴れた昼下がり、桐生はパンツ一丁で床に正座していた。  隣には二十代前半くらいの青年が座っている。彼もパンツ一丁なので、桐生と同じ理由でここに連れてこられたのだろう。  「返済期限はいつだったかな」革張りのソファに座る宇田川が、紫煙を吐き出しながら訊いてくる。  宇田川の事務所は相変わらず薄暗かった。  うららかな春の日差しが窓から射し込んでいるのに、深い沼の底に沈んでいるような感じがする。きっと部屋中に充満しているタバコの煙のせいだ。  「今日、です」桐生は白いもやの向こうにある、宇田川の骨ばった顔を見あげた。彼のうしろの壁には磔刑に処されたイエス・キリストの像が掛かっている。「今日の正午まで」  「期限までに返せなかったら、俺はお前をどうすると言っていた?」  「慈善事業に参加させる、と言っていました」  慈善事業といっても、恵まれない子供たちに愛の手を差し伸べたり、環境保護の活動をしたりといった類のものではない。  宇田川の言う慈善事業とは、角膜や心臓などの臓器を提供したり、どこかの国のどこかの農場で死ぬまで強制労働に従事したりすることである。もしくはスナッフフィルムの出演者となり、体を張って異常性癖者たちを楽しませること。  「それで、金は?」  「…すみません」  「すみません?」  「いえ、あの、金が用意」できなくて、と言いかけたところで顔面に宇田川の蹴りをお見舞いされた。  桐生はうしろに吹っ飛んで尻もちをついた。口の中に血の味が広がり、前歯が一本欠けたのがわかった。  「借りたら返す。小学生でもわかることだ」宇田川が青年の顔の前に靴を差し出す。「靴が汚れた。舐めろ」  青年は嫌がる素振りひとつ見せずに、宇田川の指示に従った。  「少しだけ待ってもらえませんか」桐生は正座したまま犬のように宇田川の足元ににじり寄った。「三か月ほど──」  「一日だ」宇田川が人差し指を立てた。「一日だけ待ってやる」  「たったの?」  「神は乗り越えられる試練しか与えない。そうだろう?」宇田川はそう言って十字を切る。
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