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「あのトラックをハッキングできないのか」
「あれは古いから無理。自動運転システムが搭載されていない」
「それでも何とかしろよ!」
「そんなこと言ったって──」
またしても衝撃。
北条が「わっ」と声をあげた。なぜか嬉しそうな表情を浮かべている。「おじさん、吐いたよ!」
「はあ?」
「さっきの衝撃で、この子がUSBを吐いた!」北条が吐瀉物にまみれたUSBをこちらに向けてくる。
ひときわ強い力でトラックがぶつかってきた。
車体が大きく揺れる。眼前に太い木の幹が迫ってくる。
ぶつかる寸前で桐生はハンドルを切った。
「そんなことより、あいつを何とかしてくれ!」桐生が叫び声をあげる。
北条が慌てて周囲を見回す。コンソールボックスを開けるが、役に立ちそうな物は入っていない。つづいてグローブボックスを開ける。
北条はその中に入っていた茶色い袋を取り出した。開けてみるとそれは、革製の工具入れだった。巻物のようにくるくる巻くタイプのものだ。中にはハンマーが四本入っている。
「ハンマーオタクか」と桐生。
「おじさん、ちょっとこの子を預かってて」北条が助手席側のサイドウインドウを下しながら、桐生に赤ん坊を差し出してきた。
「何する気だ?」
北条は質問には答えずにサイドウインドウから上半身を出した。
車内に強い風が吹き込んでくる。
北条はハンマーを一本引き抜くと、トラックに向かって投げつけた。
ハンマーブロスだ。
風に乗ったハンマーは勢いよく飛んでいき、トラックの脇をかすめた。
北条が舌打ちをする。
警戒したトラックが少しだけスピードを落として距離を空ける。
二投目も大きく外れたところに飛んでいった。
「もっとよく狙え」桐生が言う。
「わかってる!」
三投目はトラックのはるか上を飛び去っていく。
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