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「あと一本だぞ」桐生が叫ぶ。「ちゃんと狙えって」
「うるさい!」
どうせ当たらないと高をくくったのか、トラックが再び距離を詰めてくる。
北条はじっくりと狙いを澄まし、最後の一本を投げた。
ハンマーはくるくる回転しながら飛んでいく。
ガンッ、と大きな音がして、ハンマーはトラックのサイドミラーにぶつかった。ボディには傷ひとつない。
「何やってんだ馬鹿!」
「最悪!」北条が悲痛な声をあげる。
そのとき桐生の目に、二の腕ほどの太さのある枝が道路に突き出しているのが飛び込んできた。
このままだと枝は北条の後頭部に激突してしまう。
桐生は慌てて北条の服を引っ張った。
「わっ」と声をあげながら北条の体が車内に引きずり込まれる。その拍子に彼の左手に握られていた工具入れが落ちた。
工具入れは風に乗ってひらひらと漂い、トラックのフロントガラスにぴったりと張りついた。
「あ」桐生がつぶやく。
視界を奪われたトラックは車体を右に左に揺らしたあと、カーブを曲がり切れずに、木に激突した。前面が大きくひしゃげている。おそらく、あれではもう追っては来られないだろう。
「ナイスコントロールだった」
「馬鹿にしてるだろ」北条が唇を尖らせる。
赤ん坊が「だう」と声をあげた。USBを吐き出してすっきりしたのか、小さな口をいっぱいに広げてあくびをしている。
桐生はスピードを緩めた。「そういえばUSBの中身は何だったんだ?」
「ちょっと待って。見てみる」北条がパソコンにUSBを挿入する。
そのときスマートフォンの着信音が車内に響いた。ダッシュボードのスマホスタンドに置かれたスマホが鳴っている。ハンマー男のものだろう。
画面には『先生』と表示されているので、誰からの着信かは察しがついた。
桐生が応答ボタンを押す。
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