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桐生たちが黙っていると、相手は『USBは手に入ったのか、なぜ連絡をよこさないんだ』という旨の言葉を矢継ぎ早に並べ立ててきた。
「吉田か?」桐生はスマートフォンの画面を指さして、小声で北条に確認する。
北条はこわばった顔で頷いた。
やはり彼の読み通り、吉田は殺し屋を雇って不都合な証拠をもみ消そうとしていたわけだ。
「あのー、もしもし吉田さん?」桐生が話しかける。「我々は武藤さんからUSBを譲り受けた者なんですけど。もしよかったら、このUSBを二千万円で──」
「五千万」北条が口を挟む。
「五千万で買い取っていただけませんか。もし断るならこの情報をマスコミに売ります」桐生は一方的にそう伝えると通話を切った。
「人間の屑」北条がつぶやく。USB内に保存されていた情報を検め終えたのか、もうパソコンの画面を閉じている。
「それで、USBには何が入っていたんだ。裏金の記録か?」
「もっとひどい」北条が吐き捨てるように言う。「見ない方がいいよ」
「ふうん」
実のところ桐生にとってUSBの内容などどうでもよかった。金さえ貰えればそれでいい。
「あんな男の血を引いていると思うと吐き気がする」
「何言ってんだ。お前はお前だろ」
桐生がそう言うと、北条はこちらを向いて目をぱちぱち瞬いたあと、頷いた。
「そうだね、僕は僕だ」北条がシートに背中を沈める。「僕は僕」と自分自身に言い聞かせるようにもう一度つぶやく。
二人を乗せたセダンは鬱蒼とした森の中を抜けて、ようやく舗装された道路に出た。地平線の向こうから黄金色の朝日が顔を出している。
桐生は眩しさに目を細めた。
「長い夜だった」北条が背伸びをする。
赤ん坊もそれにつられて、「あむ」と言いながら背伸びをした。
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