家族ごっこ

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 道の両脇に並んだ街路樹が一定のスピードで後ろに流れていくのを、私は助手席に座って眺めていた。  運転席には山本が乗っている。  話を聞いてくれたお礼に家まで送るという彼の言葉に私は甘えることにした。あんな話を聞いた後だったので私はひどく疲れていた。  「どうだった?」山本が尋ねてくる。  私は少し迷ったが、晃弘から聞いた話を包み隠さず山本へ報告した。  人形のこと、晃弘が見た影のこと、妻の香織がおかしくなっていること。  「お前が貰って来たあの人形はまずい。早く手放さないと──」  私はそう言って山本の方に顔を向けたところで、ぐっと言葉をのみこんだ。  山本は顔を歪めながら、肩を小刻みに上下させている。彼は笑っていた。  「間抜けだろ、あいつら」  「は?」  「あの人形さ、持ち主がおかしくなる曰く付きの品だって聞いたから、骨董屋の友達に無理言って譲ってもらったんだ。嫁の浮気癖があまりにも酷いから、ちょっと懲らしめてやろうと思ってな。まさかあんなことになるとは思ってなかったけど」  「だったらほかにも方法があっただろ。息子の晃弘君にまで被害が及んでいるんだぞ」  「あいつは俺の息子じゃない。嫁が浮気相手の子種を孕んで出来た子供だから、どうなろうが知ったこっちゃないんだ」  彼の指先が、ハンドルの上で嬉しそうにリズムを刻んでいる。  「お前、どうして僕に彼らの話を聞かせたんだ。全部お前が仕組んだことなら、僕を呼ぶ必要なんてなかっただろう」  「決まってるだろ。あいつらの話を書かせるためだよ。馬鹿で間抜けな家族ごっこを、世間に晒されて笑いものになればいいんだ」  身体を曲げて、くっくっくと笑う山本の横顔を、私は呆然と眺めることしか出来なかった。  (了)
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