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階段を上がると奥へ続く短い廊下があった。
廊下の右手にはピンクの文字で『てるみのへや』と書かれたかわいらしいネームプレートが掛かった扉があり、左手には青い文字で『あきひろのへや』と書かれたネームプレートが掛かっている扉があった。廊下の奥の扉には何も掛かっていないが、おそらく夫婦の寝室だろう。照美の部屋の中からは微かに、ぎっぎっと部屋の中を歩き回っているような足音が聞こえていた。
左手の扉をノックすると、「どうぞ」と声が返ってきた。
晃弘の部屋はよく片付けられていた。オタクというだけあってベッド脇の本棚には漫画やゲームソフト、アニメキャラクターのフィギュアなどが所狭しと並んでいる。
その部屋の真ん中に晃弘は座っていた。
色白の肌と華奢な骨格には、どことなく母親の面影がある。
私は彼の対面に置かれた座布団に座ると、話を切り出した。
「君は家に幽霊が出て困っているそうだね。すこし話を聞かせてもらえないかな」
「僕が困ってる?」晃弘が眉を顰めた。「べつになにも困っていませんよ」
「だけど君は幽霊がいるから家に帰りたくないんだよね? 君が困っているから話を聞いてあげてほしいと、お父さんに頼まれて僕はここに来たんだけど」
「父がそう言ったんですか?」私の言葉を聞いた晃弘は困惑した様子で首を傾げた。
「変ですね。僕は父に『怪談話を集めている友人がいるから、家に居る幽霊の話を聞かせてあげてほしい』と頼まれたんです。まあ、たしかに幽霊が出るのは嫌だけど……。でもいいんです、べつに。除霊だのお祓いだのは望んでいませんから」
「それじゃあ、君のお父さんが嘘をついて僕をここに呼びだしたってことかい?」
私がそう言うと、晃弘は「そうなりますね」と肩をすくめた。
(なんなんだよ一体……)
私は小さくため息を吐いて髪を掻き上げた。頭が混乱していた。嘘をついた山本の意図についても、晃弘の奇妙な言動についてもさっぱり訳が分からなかった。
「とりあえず君の話を聞かせてもらえるかな。なにか手掛かりが掴めるかもしれないから」
私がそう頼むと晃弘は素直に頷き、話を始めた。
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