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「あの人形が家にやって来たことが全てのはじまりでした」
二カ月前のとある夕方、父親が段ボールを小脇に抱えて家に帰ってきた。
いつも深夜過ぎに帰宅する仕事人間の父の帰りが、その日に限ってやけに早かった。
「どうしたの、その段ボール」
晃弘が尋ねると父は上機嫌で箱を差し出してきた。
「知り合いの骨董屋から貰ったんだ。開けていいぞ」
晃弘は怪訝に思いながらも受け取って、蓋を開けた。
中に入っていたのは、古びた人形だった。
どうやら市松人形のようだが、赤い着物は色褪せ、白い肌は手垢や埃で黒ずんでいる。濡れたような黒い瞳と、薄く開いた唇の間から覗く歯が妙に生々しい。そしてなにより気味が悪かったのは人形の髪型である。本来おかっぱであったであろう髪は、あちこち無造作に短く切られて無残な様相を呈していた。
背筋に冷たいものが走り、晃弘は思わず手を引っ込めた。一目で良くないものだとわかった。
「お父さん、これなに」
「かわいい人形だろ。部屋に飾ろうと思ってな」
人形も十分に気味悪かったが、満面の笑みで答える父の方がずっと恐ろしく、晃弘はなにも言うことができなかったそうだ。
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