家族ごっこ

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 気がつくと朝になっていた。朝日が射し込む部屋の中に昨夜見た影はどこにもいない。  じっとりと汗ばんだパジャマが肌に張りついている。恐怖は未だに残っているが、朝になったという安堵からか、昨夜のことはただの夢だったようにも思えてくる。  家を出る頃には昨日のことはすっかり頭の隅に追いやられていた。  学校から帰ってきた晃弘はリビングのソファに座って、テレビゲームに興じていた。家には自分一人きり。  棚の上に置いてある人形は見られる気がして気味が悪いので、後ろ向きにしておいたし、ゲームをしている時は存在を忘れることができた。そのため晃弘はのめり込むように遊んでいた。  ふと気がつくと時刻は夕方の六時を回っていた。西日が窓から射し込んでいるとはいえ、電気を点けていないため部屋の中は薄暗い。  もうそろそろゲームをやめないと。そう思って立ち上がろうとした時だった。  ぎりっ。  昨夜の音が部屋の中に響いた。  反射的に音のした方に目を向けると、人形の首が音を立ててゆっくりと回転していた。先ほどまで壁を向いていたはずの人形の頭が今は横を向いている。  ぎりっ、ぎりっ、と音を立てるたびに、人形の首はまるで晃弘の姿を探すかのように動いた。  耳、頬のふくらみ、鼻、そして薄く開いた唇がゆっくりと晃弘の方に向けられていく。人形の首が完全に晃弘の方へ向いた瞬間、人形の頭は身体を棚の上に残して、ごとりと床に落ちた。  薄笑いを浮かべた人形の首は晃弘のことを見上げていた。  昨夜の出来事は夢でも幻でもなかったのだ。ぞわっと肌が粟立つような感覚を覚えた晃弘は弾かれたように部屋を飛び出した。
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