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「あの日を境に、家の中にいる『何か』の存在は日増しに強くなっていきました」晃弘が言う。
「これまでは視線を感じるだけだったのに、今は視界の端を黒い影が横切ったり、誰もいないはずの部屋から話し声が聞こえたりするんです」
「その人形は今どこに?」
先ほどリビングを見た時には、市松人形はなかったはずだ。
晃弘は私の背後にある部屋のドアを指差して答えた。
「向かいの部屋」
「というと、今その人形は妹さんが持っているのかい」
私が尋ねると、晃弘は頭を振った。
「僕に妹はいません」
「えっ、向かいは妹さんの部屋じゃないの?」
「母はあの人形が家に来て以来おかしくなりました。人形を自分の娘だと言って聞かないんです。信じられないなら確認してもらって構いません」
彼はそう言うと自室を出て、正面にある照美の部屋のドアを開けた。
おそるおそる中を覗くと、家具が一切ないがらんとした部屋が広がっている。その部屋の真ん中には、市松人形が置かれていた。実に異様な光景だった。
「母はあの人形を照美と呼び、毎日人形へ話しかけ、ご飯を作って、まるで本当の娘みたいに接しています。
でも僕は、この人形に宿っているのは、娘だなんてかわいらしい存在ではないと思うんです。だって金縛りにあった時に、僕の顔に触れた指はガサガサした老人のような指でしたから」
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