ラビット ハート

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今日は学校、お休み。自分の部屋で膝を抱えて丸くなる。 先輩とは、あの日の放課後から会っていない。友ちゃんに話したら、今日来てくれるって言ったけど、断った。でも何故か友ちゃんは嬉しそうだった。 「静くんにかわいいって言われて、嬉しくなかったの?」 友ちゃんにそう言われて、思い出してみる。 かわいいって言われて、嬉しくないはずはない。ただ、びっくりして、そんな事ないって否定したくて、ドキドキして。でもその鼓動は、ドキドキは、びっくりは……いつもの不安や怯えじゃ、なかった。パニックにはなりかけたけど、こわくなかった。 「静くんは、自分の感情を動かすのが苦手なんだよ。でも鈴を気にするようになって、色々戸惑ってるみたい。普通なら男の子が女の子に、かわいいって平常心で言えないでしょ。静くんはそれができちゃうから、鈴の心臓には悪いかなぁ?」 穏やかな声で、淡々と贈られてくる言葉。先輩は、私の鼓動を気にしてる。壊れそうになるくらい暴れる心臓の音を、欲してる。 悪くなんか、ない。ただ、びっくりして。たぶん、ちょっと嬉しくて。 突き飛ばした後、先輩は謝ってくれた。いつもの硝子玉みたいな瞳だったけど、その中に後悔とか、申し訳なさがゆらゆらと滲んでいたように、見えた。 ……感情がない、なんてそんな事ない。 ……心臓がない、なんてそんなはずない。 「……先輩。……涼宮先輩」 ぽそぽそと呟いてみる。一度も呼んだ事、ない。先輩は何度も、名前を呼んでくれる。あの声で、呼んでほしい。穏やかで優しく、静かな先輩の声。 先輩の声を聞くと、乱れていた呼吸や暴れていた心臓が落ち着いていくのに。こうして思い返すと、声を聞きたいと思うと、心拍数が上がっていく。パニックとは違う、ドキドキが体温を上げていく。 「先輩に、会いたいな」 膝を抱え直す。週明けが待ち遠しくなるなんて、はじめての事だった。 のに。 ……あ。でも先輩は会いたくなかったらどうしよう。突き飛ばして「離れて」なんて言って、先輩を傷付けてしまったかもしれない。どうしよう、もう顔も見たくないなんて言われたらどうしよう。ああ、不安になってきた。呼吸が乱れていく、心臓がずきずき痛い。めまいがする、気持ち悪い。 嫌われたく、ないな……。 勝手にぽろぽろ溢れる涙が、膝を転がっていく。 机の上でオルゴールのメロディが鳴った。私が驚かないようにって、友ちゃんが選んでくれた着信メロディ。 「……と、友ちゃ……」 『泣いてんの、鈴? 寂しくなっちゃった?』 こんな私に慣れっこの友ちゃんは、ふふっと笑っている。しゃくりあげて何も言えない私に友ちゃんが『ね、今から家においでよ』と誘ってくれた。
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