ラビット ハート

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言わなくちゃ、ちゃんと私の気持ちを、言わなくちゃ。先輩は聞いてくれるかな。私はちゃんと伝えられるかな。ドキドキして言葉にならないかもしれない。手が震えて、身体が震えて、まともじゃない。 それでも、なんとか顔を出そうとブランケットを握りしめた時。またキシ、と丸テーブルが音を立てた。動けなくなる。 「鈴。あのあと僕、友ちゃんに怒られた。鈴の気持ちを無視して、僕の欲求を押し付けてしまった」 先輩の声が高い位置から聞こえる。立ち上がった、の? 「鈴が僕を嫌いになっても、僕はそれを受け入れる。僕を怖いと思ったのなら、そう言って。僕はこのまま、部屋を出るから」 顔を見ずに、顔を見せずに。立ち去るから。 違う、ちがうでしょ、私! あの時「離れて」って言ったのは……あんまりドキドキして、パニックだったから。あの時のドキドキは、恐怖じゃなくて、混乱じゃなくて。 過呼吸になりかけてる。ブランケットの中、酸素が薄くなってきてる。保温性が高くて、汗をかく。違う、そうじゃない。先輩が行っちゃう! 慌ててブランケットを引っ張ったら、足で踏んでいて、バランスが崩れた。次には目の前の丸テーブルに額をぶつける音がする。痛い。 「鈴!」 近寄ろうとした先輩が、躊躇うように立ち止まった。私は額を押さえながら、やっと顔をあげる。涙で滲んだ視界で先輩は、私を見下ろしていた。 「……こわく、ないです。嫌じゃないんです」 ぽろぽろ溢れる涙は額の痛みのせいか、心の痛みのせいなのか。 「も、もっと、先輩の事、知りたいです。先輩の側に……居てみたいんですっ」 先輩はゆっくりと近寄ってきて、膝をついた。手を伸ばして、私に触れる直前で、止まる。 「本当に? 鈴」 先輩の綺麗な形の眉が少し形を変えてる。硝子玉みたいな瞳がきらきら、潤んでる。 感情がないなんて、そんな事ない。 「触れていいの?」 胸を押さえている先輩の手に、力がこもっている。トレーナーの胸元はしわくちゃだ。私は深く考える事なく、固く握られている先輩の手に触れた。 胸元を掴んでいた手を私の頬へ導き、私の左手は、先輩が握っていた胸元へぴたりとくっつける。 心臓がないなんて、そんなはずない。 先輩の胸の奥が、小さく、確かに震えていた。とくんと、手のひらに伝わる鼓動。私の腕に雫が落ちてきた。先輩の綺麗な瞳から、感情の雫が落ちてきた。 「す、涼宮先輩……の、心臓に。あなたの心の側にいたいです」 先輩は、はじめて会った時「僕の心臓になって」と言った。 先輩の揺らがない感情が、揺さぶられない心が、私の心音で、鼓動で動かされるのだとしたら。 反対に、私の混乱や恐怖のパニックが、先輩の穏やかな声や、眼差しに落ち着かさせるのなら。 足して二で割って、ちょうどいいのかもしれない。
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