第34話 私は、抗う

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「もちろんです! お義母様は、私たちが必ず救います! それに当日は、お父様も邪祓いに参加されますし、安心してください」 「え? レオン様も、邪祓いに参加されるのですか⁉」 「ああ、もちろんだ」  俺は頷き、当日の役目を告げると、リュミエールは眉間に深い皺を刻みながら、大きく首を横に振った。  細い指のどこに、こんな力があるのかと思えるほど、強く俺の腕を掴む。 「い、いけません! 私なんかのために、あなた様の身まで危険に晒すなど‼」 「もう決めたことだ。邪祓いという危険に、ビアンカだけを関わらせるわけにはいかない。それに家族の一大事に、夫であり父親である俺が動かない理由がない」  家族を守れなくて、国が守れるかってーの! 「でもあなた様は、エクペリオン王国の主です! そしてビアンカは国の希望。こんなことで失われてはならないのです! この機会に正直に申し上げますが……私は、ビアンカが狭間の獣を祓うことに納得していません! やはり、安全かつ確実な方法をとるべきかと……」 「言ったはずだ。俺の幸せの中には、お前がいないと駄目だと」  リュミエールが、ハッと息を飲んで俯いた。髪の毛の隙間から見える耳の先が、ほんのり赤くなっている。「しかし……」と絞り出すように呟く彼女の手を、強く握りしめた。 「誰の優先順位が高いとか関係ない。誰一人欠けてはいけないんだ」  そう。  俺たちは、家族なのだから―― 「皆で、幸せを掴むんだ。そのための危険なら、俺はいくらでも引き受ける」  きっと、記憶にない繰り返された世界の中でも、俺は同じ選択をしたはず。いや、チート能力がなくとも、俺の決意は変わらない。    だって、こんなに美しい妻と世界一可愛い娘が、俺の家族なんだぞ?  こんなに素敵で温かい家族が、今世にはいるんだぞ?  守らない、理由がないだろ‼  ビアンカも、身を乗り出す。 「そうですよ、お義母様。あなたが一人で悩み、苦しみ続けた重荷を、どうか私たちにも背負わせてください。家族皆で、乗り越えましょう!」  リュミエールは、何の反応も見せなかった。  だが大きく見開かれた青い瞳がみるみる潤み、耐えきれなくなった涙が目尻を伝って頬に流れた。彼女の頭が深く沈む。 「ありがとう……ございます……レオン様、ビアンカ……」  肩を振るわせながら、リュミエールは俺たちに向かって深く深く頭を下げ、そしてゆっくりと顔を上げた。  頬は濡れているが、新たな涙は流れていなかった。 「母を死に追いやった私に……狭間の獣に取り憑かれ、国を危険に晒した私に、幸せになる権利などないと思っていました。レオン様とビアンカが幸せになるのなら、この命など惜しくはないと。しかし……もう終わりにします」  決意に満ちた美しい表情が、俺たちの視線を奪う。 「私は、(あらが)う。ですからどうか、狭間の獣を祓う力を、私にお貸しください」  リュミエールは、覚悟を決めたのだ。  過去と決別し、自らを罰することを止め、俺たちのために――そして自分のために幸せになる覚悟を。  俺は、そんな彼女の覚悟を美しく、そして誇らしく思う。  リュミエールの決意に皆が心を打たれる中、俺たちの様子を見守っていた大神官が、腕を組みながら納得した様子で呟いた。 「ふむ……初めて陛下からご提案をお聞きしたときは、驚きましたが……なるほど、これは納得ですなあ」 「陛下からのご提案? 何のことでしょうか?」  って、くそ爺っっっっっっっ‼  その話は、リュミエールには内緒だっつっただろーーーーーーーーーーがっっっっ‼  俺の心の叫びが、鬼の形相となって現れていたのか、大神官の表情がピシッと固まった。かと思えば、カラ笑いをあげて誤魔化そうとした。  ……いやいやいやいや、ごまかし切れてねーけど?  リュミエールさんが、疑惑の眼差しを向けていらっしゃいますケド?  誤魔化すの下手くそ過ぎだろ、こいつ‼  大神官も、誤魔化しきれていない雰囲気を察知したのか、 「いやぁー、今日は良い天気ですなぁー」  とか、突然全く関係のない天気の話とかし出すし!  ここで、今までの空気感とか感動とか、そういうのを全てぶった切って、いきなり天気の話もってこれるとか、メンタル鋼なの?  それとも、馬鹿なの⁉    そのとき、 「お義母様? よろしければ、今から私と一緒に大神殿をまわりませんか? 私がご案内いたします! ここは、邪纏いに対抗する場所ではありますが、長い歴史があるため、様々な芸術的作品が保管されているのですよ?」 「そうなのですか! とても興味深いですね?」 「はい! もの凄く大きな絵画もあるんですよ。是非お義母様にも、観て頂きたいです!」  ビアンカの無邪気な提案に、リュミエールの意識がそちらに向いた。継子の楽しそうな提案と満面の笑顔によって、大神官の失言が彼女の記憶から消去されたようだ。  ビアンカ、グッジョブ過ぎる‼  流石、賢可愛い俺の娘‼  場の空気を読んだのか聖騎士たちもビアンカの発言に合わせ、「ささっ、王妃様、こちらへ……」と、リュミエールを部屋の出口へと誘っている。  リュミエールの手を、ビアンカが自然な流れで取ると、二人は聖騎士たちと共に部屋を出て行った。  皆のファインプレーのお陰で、俺の計画が洩れることは防がれた。  本当に良かった……  実は、リュミエールにサプライズを用意しているのだ。  彼女に知られないように、コソコソと計画実行の準備を進めていたのに、この爺のおかげでパーになるところだった。  ホッと胸を撫で下ろしていると、 「いやぁー、危なかったですなぁー。しかし、何とか誤魔化せたようで良かったです」  と、元凶がのうのうとお茶を啜っているんだが。  え? 何でアレで誤魔化せたと思ってんの?  ええ? 何でお前がやりきった顔してんの?  ……駄目だこいつ。  早く何とかしないと。
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