第22話 笑顔の理由

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 でもまさか本当に、死体愛好家……というかネクロマンサーな王子だったとは……いや、さっきベルガイム王家自体が邪纏いって言ってたな……  狙っていたんだろう、この国を。  そしてビアンカの夫となり、さらに俺が心神喪失している隙を狙って、国を乗っ取ろうと計画したんだろう。  やべぇ……くっそ近くに国の脅威あるやん……  全てが終わったら、対処しよう。  くそ王家もくそ王子も、全員首を洗って待ってろ。  ビアンカを鑑賞用玩具にしようとしたことを、後悔させてやる!  ビアンカの頭を撫でると、心の中で荒れ狂っていた怒りが引き、代わりに悔しさと後悔で一杯になった。 「……守ってやれなくて……すまなかった、ビアンカ」  謝罪を口にすると、自然と目頭が熱くなった。  愛する妻を失い、最愛の娘を守れず死んだ一度目の人生の俺は、さぞかし無念だっただろう。  今ですら、これだけ胸が苦しいのだから。  だがビアンカは首を横に振ると、優しく微笑む。 「いいえ。お父様は最期の瞬間まで、私を守ろうとなされました。いつ死んでもおかしくない程の怪我を負いながらも、私が逃げるための道を作って下さったのです。だから……もう謝らないでください」  そう話すビアンカの瞳も潤んでいた。  しかし、服の裾で目をゴシゴシ擦ると、真剣な表情に戻った。 「それにまだ話はこれからなのですから」 「……ああ、そうだな」  その言葉に、俺は僅かに滲んだ涙を服の裾で拭くと、話を聞く体制に戻った。 「二度目の人生は、一度目と少し違っていました。王妃殿下は嫁いでこられたときから、冷たいお人でした。ですが、なんというか……一度目の人生に比べると、あまり虐めてこないというか……」 「一度目の人生のときと、王妃の様子が違っていたのか?」 「はい。だから二度目の人生では、徹底的に王妃殿下を観察することにしたのです。よくよく観察した結果、王妃殿下が、私やお父様を心の底から嫌っているわけではない――むしろ好意を寄せてくださっていることに気付きました。それを見て確信したのです。私の仮説は正しかったのだと」 「え? 王妃の表情が読み取れるのか⁉」 「ええ。今の王妃殿下も分かりやすいですよね。私と会うと、一瞬だけ頬の緊張が溶けるのです。それに私が大神殿から戻ってきた際も、立ち去る際、一瞬だけもの凄く苦しそうな気持ちを顔に出されていましたし、ご無理をされているのだなって」  何で分かるんだ⁉  うちの娘、微表情が読めるタイプの超人なのかな⁉ 「でも二回目の人生は、たった二年――私が九歳のときに突然終わってしまいました。三回目の人生を始め、二回目の人生と同じく、王妃殿下から悪意を感じられないと、私を虐めてもちゃんと逃げ道を用意されていると確信した私は、十歳のとき、思い切って邪纏いの鏡に会いに行ったのです。隠し通路があることは、一度目の人生で分かっていましたから」  邪纏いの鏡――つまりポチのことだ。  さすが親子だな。  考えることは一緒―― 「でもあの鏡は、何かごちゃごちゃ言う割には、何も教えてくれなくて……何か腹が立ったので、護身用に持参していた槌で壊しました」  って、壊されてるぅぅぅぅ⁉  た、確かに俺のときもポチの野郎、何かごちゃごちゃ言ってたけど、さすがに壊すのは思いとどまってやったぞ?  可愛い顔して結構容赦ないな、うちの娘!  意外と短気だな、うちの娘!  怒らせないように俺も気をつけよう……    もちろん、鏡を割ると大きな音が出るわけで、それを聞きつけたアリシアに、ビアンカは感情のままに、自分が知っていることを全て伝えた。  アリシアが、自分たち親子のことが好きなのに、冷たい態度をとっていること。  このままだといずれ一度目の人生のように、ビアンカを殺そうとした悪女として、処刑されてしまうことを。 「だから……困っていることがあるのならお父様に話して、一緒に解決しようって言ったんです。そうしたら王妃殿下は……泣いていらっしゃいました。泣いて……私を抱きしめてくださったんです。何度も何度も、ごめんなさいって謝罪されながら……」  しかしそれでもアリシアは、全てを語らなかった。 「自分の口からは話せないのだと……でも全てを知りたいのなら、大神殿に行って欲しいとお願いしてこられたのです。だけど、お父様が大神殿行きを中々許してくださらなくて……そして気付けば、七歳に戻っていたのです」 「ご、ごめん……」  ……俺の過保護も、ちょっと見直すべきかなあ。  でも八ヶ月前、ビアンカが突然、大神殿に行きたいと言い出した理由が、これで分かった。  前の人生でアリシアと交わした約束を果たし、全てを知ろうとしたのだ。  結果、ビアンカは聖女認定をされた。  聖女修行をしたいというビアンカの願いを俺は許さなかったが、アリシアが後押しした。  恐らく……アリシアの事情に、聖女修行も関わっていたから。  全部、繋がっていたのだ。 「お前が突然大神殿に行きたいと言い出したのは、そういう理由か」 「はい。一人で出歩くことが許される九歳を待つのは、とても長かったですけどね」 「言ってくれれば、俺だって……」 「ごめんなさい……お父様に、これ以上のご負担をかけたくなかったのです。一度目の人生で、たくさんご負担をおかけしたのをみていたので……だから話すなら、全てが分かってからと決めていたのです」  ビアンカが申し訳なさそうに言う。  ううっ……や、優しい……  でもこうやって俺に全てを打ち明けてくれたということは―― 「短期間ではありましたが聖女修行を受け――分かったのです」  大きく心臓が跳ねた。  いよいよ核心に触れるからだ。  ビアンカの唇がゆっくり動く。 「王妃殿下は、最強最悪の邪纏い【狭間の獣】に取り憑かれておられます」 
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