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でもまさか本当に、死体愛好家……というかネクロマンサーな王子だったとは……いや、さっきベルガイム王家自体が邪纏いって言ってたな……
狙っていたんだろう、この国を。
そしてビアンカの夫となり、さらに俺が心神喪失している隙を狙って、国を乗っ取ろうと計画したんだろう。
やべぇ……くっそ近くに国の脅威あるやん……
全てが終わったら、対処しよう。
くそ王家もくそ王子も、全員首を洗って待ってろ。
ビアンカを鑑賞用玩具にしようとしたことを、後悔させてやる!
ビアンカの頭を撫でると、心の中で荒れ狂っていた怒りが引き、代わりに悔しさと後悔で一杯になった。
「……守ってやれなくて……すまなかった、ビアンカ」
謝罪を口にすると、自然と目頭が熱くなった。
愛する妻を失い、最愛の娘を守れず死んだ一度目の人生の俺は、さぞかし無念だっただろう。
今ですら、これだけ胸が苦しいのだから。
だがビアンカは首を横に振ると、優しく微笑む。
「いいえ。お父様は最期の瞬間まで、私を守ろうとなされました。いつ死んでもおかしくない程の怪我を負いながらも、私が逃げるための道を作って下さったのです。だから……もう謝らないでください」
そう話すビアンカの瞳も潤んでいた。
しかし、服の裾で目をゴシゴシ擦ると、真剣な表情に戻った。
「それにまだ話はこれからなのですから」
「……ああ、そうだな」
その言葉に、俺は僅かに滲んだ涙を服の裾で拭くと、話を聞く体制に戻った。
「二度目の人生は、一度目と少し違っていました。王妃殿下は嫁いでこられたときから、冷たいお人でした。ですが、なんというか……一度目の人生に比べると、あまり虐めてこないというか……」
「一度目の人生のときと、王妃の様子が違っていたのか?」
「はい。だから二度目の人生では、徹底的に王妃殿下を観察することにしたのです。よくよく観察した結果、王妃殿下が、私やお父様を心の底から嫌っているわけではない――むしろ好意を寄せてくださっていることに気付きました。それを見て確信したのです。私の仮説は正しかったのだと」
「え? 王妃の表情が読み取れるのか⁉」
「ええ。今の王妃殿下も分かりやすいですよね。私と会うと、一瞬だけ頬の緊張が溶けるのです。それに私が大神殿から戻ってきた際も、立ち去る際、一瞬だけもの凄く苦しそうな気持ちを顔に出されていましたし、ご無理をされているのだなって」
何で分かるんだ⁉
うちの娘、微表情が読めるタイプの超人なのかな⁉
「でも二回目の人生は、たった二年――私が九歳のときに突然終わってしまいました。三回目の人生を始め、二回目の人生と同じく、王妃殿下から悪意を感じられないと、私を虐めてもちゃんと逃げ道を用意されていると確信した私は、十歳のとき、思い切って邪纏いの鏡に会いに行ったのです。隠し通路があることは、一度目の人生で分かっていましたから」
邪纏いの鏡――つまりポチのことだ。
さすが親子だな。
考えることは一緒――
「でもあの鏡は、何かごちゃごちゃ言う割には、何も教えてくれなくて……何か腹が立ったので、護身用に持参していた槌で壊しました」
って、壊されてるぅぅぅぅ⁉
た、確かに俺のときもポチの野郎、何かごちゃごちゃ言ってたけど、さすがに壊すのは思いとどまってやったぞ?
可愛い顔して結構容赦ないな、うちの娘!
意外と短気だな、うちの娘!
怒らせないように俺も気をつけよう……
もちろん、鏡を割ると大きな音が出るわけで、それを聞きつけたアリシアに、ビアンカは感情のままに、自分が知っていることを全て伝えた。
アリシアが、自分たち親子のことが好きなのに、冷たい態度をとっていること。
このままだといずれ一度目の人生のように、ビアンカを殺そうとした悪女として、処刑されてしまうことを。
「だから……困っていることがあるのならお父様に話して、一緒に解決しようって言ったんです。そうしたら王妃殿下は……泣いていらっしゃいました。泣いて……私を抱きしめてくださったんです。何度も何度も、ごめんなさいって謝罪されながら……」
しかしそれでもアリシアは、全てを語らなかった。
「自分の口からは話せないのだと……でも全てを知りたいのなら、大神殿に行って欲しいとお願いしてこられたのです。だけど、お父様が大神殿行きを中々許してくださらなくて……そして気付けば、七歳に戻っていたのです」
「ご、ごめん……」
……俺の過保護も、ちょっと見直すべきかなあ。
でも八ヶ月前、ビアンカが突然、大神殿に行きたいと言い出した理由が、これで分かった。
前の人生でアリシアと交わした約束を果たし、全てを知ろうとしたのだ。
結果、ビアンカは聖女認定をされた。
聖女修行をしたいというビアンカの願いを俺は許さなかったが、アリシアが後押しした。
恐らく……アリシアの事情に、聖女修行も関わっていたから。
全部、繋がっていたのだ。
「お前が突然大神殿に行きたいと言い出したのは、そういう理由か」
「はい。一人で出歩くことが許される九歳を待つのは、とても長かったですけどね」
「言ってくれれば、俺だって……」
「ごめんなさい……お父様に、これ以上のご負担をかけたくなかったのです。一度目の人生で、たくさんご負担をおかけしたのをみていたので……だから話すなら、全てが分かってからと決めていたのです」
ビアンカが申し訳なさそうに言う。
ううっ……や、優しい……
でもこうやって俺に全てを打ち明けてくれたということは――
「短期間ではありましたが聖女修行を受け――分かったのです」
大きく心臓が跳ねた。
いよいよ核心に触れるからだ。
ビアンカの唇がゆっくり動く。
「王妃殿下は、最強最悪の邪纏い【狭間の獣】に取り憑かれておられます」
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