第25話 白雪姫の七人のこびと、そうきたか‼

2/2
前へ
/71ページ
次へ
「聖女様。聖剣は、あなた様がお使いになられるのですか?」 「ビアンカが聖剣を使う? どういうことだ、それは」  訊ね返したのは俺。  俺の質問を聞いたビアンカの表情が、みるみるうちに厳しいものへと変わった。 「未熟な聖女が、狭間の獣に取り憑かれた人間を救う方法は、聖法で狭間の獣の動きをとめ、聖剣で貫くことなんです」 「つまり、お前がこの剣で狭間の獣と戦うってことか⁉」 「はい」  いや、危険すぎじゃない?  そんな危険なことを、ビアンカにさせるわけなくない?  いや、そもそも聖剣持てなくない?  俺の心の声が届いたのか、ビアンカが俺の様子を伺うように顔を覗き込んできた。 「やはり反対され……ますよね?」 「当たり前だろ! こんな危険なことを、お前にさせられるか!」  俺の言葉に頷いたのは、意外にも聖騎士たちと村長。  聖騎士の一人が前に進み出る。 「私たちも、陛下のご意見に同意です。狭間の獣とは私が戦いましょう。どうか当日、私に聖女の刻印をお与えください」 「そう……なりますよね……」  ビアンカは諦めたように溜息をついた。  そして、知らない単語の説明はよ、と思いっきり顔に出している俺に、分かってますよと言わんばかりに苦笑いすると説明してくれた。 「本来であれば聖女自身が戦うのですが、聖女の刻印を与えた者が代わりに聖剣を使い、戦うことが出来るのです」 「つまり、お前の代わりに戦えるってことか?」 「はい。聖女が幼かったり、戦えないような状態だった場合の措置だそうです」  なるほどな。  身代わりを申し出てくれた聖騎士の腕っ節は強そうだ。恐らく、このときのために、日々鍛錬を積んできたのだろう。身体も滅茶苦茶鍛えられているし。  しかし、俺の心は決まっていた。 「その役目は、俺が引き受けよう」  俺にはチート能力がある。  いざとなればそれで、狭間の獣を倒せるからだ。  だがこちらの思惑を知らないビアンカが、驚き叫ぶ。 「お、お父様は国王じゃないですか! 国の主がそんな危険なことを――」 「国存亡の危機に、俺の身を心配しても意味が無い。それに、俺だって剣術には自信がある」  これでも俺の剣術はかなりの腕前だ。  実戦経験だってある。  目の前の聖騎士たちにも劣らないはずだ。  ビアンカは納得出来ていない様子だった。だからもう一押しと言葉を続ける。 「聖騎士たちを信用していないわけじゃない。俺の手で――リュミエールを救いたいんだ」 「……分かりました。ですがお父様、くれぐれも気をつけてください。絶対に無茶はしないで……」  俺の真剣な言葉に、ビアンカの心が動いたようだ。  これでビアンカを危険な目に遭わせることはないし、いざとなれば、チート能力で倒すことができる。  間違いなく、リュミエールを救える――  そう思ったとき、  ワンワンワンッ!  部屋の奥から犬の鳴き声がしたかと思うと、一頭の白い犬が部屋に飛び込んできたのだ。俺の腕に抱えられるぐらいの大きさだろうか。  村長に飛びつこうとした犬を聖騎士の一人が慌てて抱き上げると、犬は遊んでいると思ったのか、ブンブンと尻尾を振りながら、抱き上げた聖騎士の顔を舐めようと鼻を擦り寄せた。  かなり人なつっこい犬だ。  正直、俺は勘弁だが、ビアンカの瞳が輝いた。大人びた様子は影を潜め、十歳の少女らしい顔に戻っている。 「わあ、可愛い! お名前、何て言うんですか?」 「ルイルイです。よくある名前でしょう?」 「そうですね、ふふっ」  聖騎士とビアンカが、犬の名前で盛り上がっている。  ルイルイかぁ。  ほんっと、よくある名前だなあ。  前世の記憶で言うと、ポチと同じぐらいのよくある度――……あれ?  ふと何かが引っかかった。  この世界では、ありきたりな犬の名前といえばルイルイだ。猫はウォル。  両方とも前世の世界で言えば、犬はポチで、猫はタマ、みたいな感じだ。  何を言いたいのかというと、この世界では犬の名前にポチはつけない。いや、世界中を探せばいるかもしれないが、少なくとも一般的じゃない。  ほらビアンカだって、鏡の名前をポチだと紹介したとき言ってたじゃないか。 ”それにしてもポチだなんて、変わったお名前ですね”  って。  何だ、この違和感は。  一体何が引っかかって……そうだ。 ”ぽち……って酷すぎませんか⁉” ”ひぃぃっ! 今日から私めの名前はポチです! あなた様の忠実なる犬でございます! だから王杓を振り上げないでください――‼ いくらでもワンワン鳴きますからぁぁ~……”  何故あいつは、ポチという単語を聞いて、  だと思ったのか――  ポチを犬の名前だと紐付けるには少なくとも、井上拓真の世界の知識がなければ出てこないはずだ。思い返せば、俺が前世の世界でしかない話をしても、あいつ、普通に受け入れていた。  ポチはもしかして俺と同じように、井上拓真の世界から来た存在なのか?  転生したら鏡だった、というオチか?  そんなラノベ展開も捨てがたいが……もっと真実は単純だ。  あのとき、あいつは何て言った?  は俺の問いに、何と答えた? ”お前、さっきコンビニって言ってたよな。ってことは、俺がいた世界の知識があるようだな?” ”え? あーまあ……ほどほどには。私はあの世界の副管理者ですので”  俺が知っている、井上拓真の世界を知る人物。  そして鏡が、拓真の世界の知識を持っているという事実。  それらから導きだされる答えは――  ビアンカとともに城に戻った俺は、リュミエールを偽の用件で呼び出して寝室に近づけないようにすると、ポチの本体――魔法の鏡と対峙した。  紫の布を荒々しく剥がし、自分の顔が映る鏡に向かって低い声で問いかける。 「いるんだろ、答えろポチ――いや……」  目を伏せると、今までの記憶がもの凄いスピードで流れて消えていった。  ゆっくりと目を開け、名とも呼べぬ名を呼んだ。 「ファナードの女神」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加