第43話 妻が泣いていれば、飛んでいくものだろ?(別視点)

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「信じられません……」  副管理者たる女神の声が響き渡った。  今、二人と一つが、黄金の巨木の前で立っている。  レオンと再会したアリシアは、彼に全てを打ち明けた。  自分に取り憑いた狭間の獣が、世界を滅ぼしたことを。  簡単にファナードを投げ出し、消滅させようとしていた女神から、この世界を譲り受け、新たな女神になったことを。  しかし制約が厳しすぎて結局、今の今に至るまで、世界を救う手立てが見つかっていないことなど、全てを――  リュミエールとアリシアが同一人物であることは、何故か簡単に受け入れてくれた。  ちなみにこの場にいる時、彼は妻をアリシアだと認識しているようだ。  そして全ての説明が終わった後、副管理者に来て貰ったのだ。   「本当に……信じられません。こんなことが、あるのですか?」  副管理者からは、魂の結晶が世界の外で自我を持ち、動いていることに対する驚きが伝わってくる。さっきから何度も何度も驚きの言葉を繰り返しているので、本当に前代未聞のことなのだろう。  そのたびにレオンは、 『いや……だから妻が泣いていたら慰めたりするだろ、普通……』  と繰り返すのだが、 「いえ、だからって普通、世界の外まできます? え、ちょっとそこまでいくとキm……いや、愛が深いのですねぇ……」 『おい、今言いかけた一文字全てに、俺に対する本心が出てたぞ』  と副管理者たる女神に引かれ、レオンは不機嫌そうに言葉を返していた。  何度かこのやりとりをした後、場を仕切り直すように、レオンの表面が強い輝きを放った。 『とにかくだ。俺がここにいるのは、前代未聞なんだってな。ならばファナードを救う為に、俺を利用出来ないか?』 「ですが先ほども説明したとおり、出来ることは限られています。前管理者も、ファナードに干渉する方法が他にないか探してはいたみたいですが、見つからなかったと……」 『だが、俺のような存在を使ってはいないんだろう? 意外なところに突破口があったりするものだ』  レオンは今の状況を、チャンスだと捉えているようだ。 (そうだわ……この人はいつもそうだった。どんなときだって決して諦めなかった……)  夫の性格を思い出し、アリシアは下唇を噛んだ。  とはいえ、レオンの存在を有効活用する案は思いつかない。それは、副管理者もレオンも同じだった。  静けさが場を支配する。  沈黙を破り、話題を変えたのはレオンだった。 『そういえば副管理者というあなたは、どのような世界を管理しているんだ?』  恐らく考えが行き詰まったので、別の話題を一旦挟むことにしたのだろう。アリシアも人間だったころ、仕事に行き詰まったレオンの気晴らしのためのお茶に、よく付き合ったことを思いだし懐かしくなった。 「そうですね……」  副管理者が言葉を選びながら説明をする。   「私が管理する世界は、ファナードとは全く異なった文化をもっています。邪纏いという存在がないため、聖法・邪法がありません」 『ほう。邪纏いがいないのか。羨ましいな』  アリシアも同感だ。  だが布の向こうから、副管理者の苦笑いが伝わってくる。 「とはいえ、私が管理する世界も様々な問題を孕んでいます。でもあの世界を育てる難易度は低いので何かあれば干渉し、世界が成長すべき正しき形に導くことは可能です。多少、無茶なことも出来ます」 『例えば……あなたが気に食わない人間に雷を落として殺すなんてことも?』 「可能です。流石にしませんけれど」  突然物騒なことを口にした夫に、アリシアはギョッとしたが、副管理者は特に気にした様子なく、カラカラと笑った。 「特に私が好きなのは、とある島国の文化ですね。娯楽がとても発展していて、感心するものがあります」 「娯楽ですか。そういうものが発展するということは、平和なのでしょうね。どんな娯楽が流行っているのでしょうか」  興味を示したアリシアに、副管理者が自分の手を見つめながら答える。 「手のひらぐらいの小さな画面を皆が持っていて、そこから色々な情報を見ていますね。あとは、こんな感じでピコピコするものとか……」 「ピコピ、コ……?」  副管理者が両手を握り、親指で何かを押しているような動作をしている。  しかし、発言と行動から何をしているのか全く読み取れず、彼女の説明下手さにアリシアは困惑するしかない。  副管理者とアリシアの会話がふと途切れた。  そして気付く。  レオンが、先ほどから言葉を発していないことに。  副管理者もアリシアと同じことを感じ取ったのだろう。  二人の視線が集まったところで、黙っていたレオンが言葉を発した。 『……俺を、副管理者が管理している世界に連れて行くことは出来ないか?』
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