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入道雲
澄み渡る青空に人々を見守るように、もくりもくりと白く美しい巨体を成長させながら黙座していた。その姿は、ただ穏やかに静観しているだけであり、このままいつものように時が過ぎるだけであると思っていたが――。
カレが人であるならば、憤然とした態度になり、荒んだ行動を先程から繰り返していた。
私もそれに巻き込まれてしまい、なかなかの被害にあった。簡単に言ってしまえば濡れ鼠である。
偶発的とはいえ、仕方ないことだが、もはや諦めの境地――。ただ呆然と私は途方に暮れて、その様子を眺め続けることしか出来なかった。
一時的な避難場所として、勝手に他所様の軒下を使用してしまい心苦しいが、暫くそっと身を潜めることにした。
「酷い夕立ですよね。入道雲は何処へ隠れてしまったのかしらね」
軽やかな可愛らしい声が、私の肩越しからそっと囁かれた気がしたので振り向く。いつから居たのだろうか、嫋やかな女性が穏やかに微笑んでいた。
それが私と彼女の出逢いである。
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