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お祭り
線路沿いの緩やかな坂道を、ぽつりぽつりと続く街頭を頼りに歩いていく。
いつもとほぼ同じ時間に、最寄り駅を降りていたはず。
先程から何か違和感を感じる――だからなのか?纏わり付く空気が重く、いつもより街頭の明かりも暗い気がしてならない。
――駅まで戻ろうか……
自分の予感なんて曖昧なものは、普段は頼りにしない。だけど、今日は素直に受け入れることができた。
踵を返し、歩いてきた道を戻ろうとしたが、それはもう遅すぎた。
あるはずの道は暗闇に塗りつぶされ、跡形もなく消えている。もう前に進むしかなく、強張る身体を引き摺るように前へと歩いていく。
感覚もおかしくなっているのか、どれ程歩いたのかわからない。
何処からともなく、甘い花のような薫りが漂ってきた。
そして吸い寄せられるように、その薫りを辿っていく。薫り以外何も考えられなくなり、身体も軽やろかに、そして自分の身体でないような――甘く気怠い痺れが全身を覆った。
いつの間にか今まで聞いたことがない美しい調べ、そしてこの世と思えない歌声が身を包んでいた。
「おやおや、招かざれる客人かな?宴はまだまだ終わらぬからな……まぁよい、お前もこちらへ――」
いつの間にか私の横に、すらりとした上背のある青年が立っていた。その青年は真っ白な平安時代のような格好をしている。
何故だろう……思考がますます鈍くなり、思うように考えられなくなっていった――。
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