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学童クラブのバイトが終わるのは21時。それから取る夕食は、その他の日よりもかなり遅い時間になってしまう。普段はなるべく自炊をするよう努めているが、バイト後家に帰ってから支度をするのは流石に面倒で、週二回は駅付近のファストフード店やファミレスに入ったり、弁当を買って帰ったりする。
ただ、この時間帯の駅前は煩わしい。金曜日である今日はなおのこと。
行先も目的も揃わない人の流れが顕著に乱れる。その景色のなかで、誰にも合わせられない自分を嫌でも自覚させられて、癪に障る。
バーや居酒屋を始めとした飲食店が多く集まっていることから、酒の回った連中も湧き始める頃合い。見ず知らずの他人とはいえ、奴らは基本的に不快だ。必要以上に声が大きい。周りが見えていないから動作も雑だ。擦れ違うだけでも分かるほど酒臭い奴もいる。
誰の目にも明らかな醜態を晒しておきながら、どうして悪びれもせずいられるのだろうと思う。気が知れない。
気分も相まって、そんな奴らの存在がより虫の居所が悪いものになってきた。
さっさと電車に乗って帰ろう、夕食はアパートの近くのコンビニかスーパーあたりで買おう。
見慣れた町の光景に嫌悪の情を催し、相変わらず人の行き交う駅構内を縫うような早歩きで、俺は地下の改札を目指す。
学業、仕事、趣味、交友、その他諸々個人の事情の全てがそこには渦巻いている。それらをただの雑音に置き換えて、俺は自分の精神を守る。刺激に煽られる前に遮断し、何も望んでいないふりをする。
自分では完璧なつもりの防御。
だが、心を守ることに気を取られて本体に隙があったらしい。
背後に接近する人の気配に気づき、振り返るよりも早く左手首を取られた。
「――――お兄さん、可愛いね。俺と遊んでよ」
ぞっとするような甘さを纏った声に危機感を覚え、身体ごと翻して手首を抜こうとするも、足がもつれて膝の力が抜けてしまう。崩れ落ちそうになったのを抱き止められたところで、声の主の顔を確認した。
「…………何で、よりにもよって」
「やっほー。大好きな偲先輩だよ? 嬉しいね」
補足するなら著しく鬱陶しいテンションの偲先輩である。しかも酒臭い。高熱でも出した人間が見る悪夢みたいな柄のパーカーなんか羽織りやがって。
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