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◆◆金ヶ崎偲◆◆
永司くんの臆病さは本当に歪だ。さらに滑稽でもあるし、残酷でもある。
廊下や壁を隔てて聞こえるシャワーの流水音。本来は何の意味もない物音に、浅ましくも煽られそうになる自分を誤魔化すため、スマホでくだらない動画を眺めては時間をやり過ごしていた。
駅前でバイト帰りの永司くんと会ったのは偶然だった。そこで、俺は酔っていた勢いを借りて彼を自分の部屋へ誘った次第だ。
臆病でありながら、流されやすいのも永司くんだ。俺の言葉を拒む癖に、押すとすぐに傾く。
初めは部屋に来ることすら抵抗を示していたが、少し焚きつけると物欲しそうな目をして俺の後をついてきた。
リビングダイニングに散乱する物を申し訳程度に寄せて、二人分のスペースを確保した。ソファーに並んで、夕食がまだだという彼は立ち寄ったコンビニで買った弁当を食べ、俺はハイボール缶を一本空けた。
その後対戦ゲームで遊んでいたら、時計の針はあっという間に0時を越えていた。いっそのこと泊まっていきなよと俺が促すと、また断るポーズを示す永司くん。でも、俺がごねた体でなお押し続けると結局打ち靡いた上、今は勧められたままにバスルームを借りている。
いじらしいと言えばいじらしいが、時々疲れがどっと襲ってくることがある。
こういう形の攻防を、俺達は高校時代から今に至るまで続けている。二人だけの駆け引きに擽られるようなスリルを見出して楽しむ一方で、時々我に返るとどうしようもない歯痒さに気づく。
まるで滑車のなかで走り続けているような虚しさ。俺達の関係は、もう何年も同じ地点で足踏みをしているだけなのだ。それでも、やめることができない。
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