2.恋人未満だし友達未満

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「君は全く――」  高鳴っていた胸が、再び熱を持ち始める。  もはや迷ったのはとりあえずで、俺は思いが向くままに彼を正面から抱き締めた。部屋に着いた時も同じようなことをして、拒絶されていたことは承知の上で。  服の洗剤も浴室の石鹸も、どちらも普段自分が使っているもので、匂いも当たり前に嗅ぎ慣れている。けれども、永司くんの身体を通して感じるそれは、知らない香りのように俺を惑わせる。  酒の酔いは醒めたはずなのに、くらっとしたものが頭のなかを回った。不快感ではなくむしろ心地よいその刺激は、脳から血流に乗って全身に甘い痺れを伝えた。  自らの意思なのか衝動なのかも曖昧になってきて、俺の手は彼の腰を引き寄せる。  もう、このまま――  そんな欲が頭を染めようとしたところで、彼の声で現実に引き戻された。 「先輩、しっかりしてください……!」  また手で押しのけるように身体ごと離される。  見開いた眼が揺らいでいる永司くんは、震える声で言った。 「……今日の先輩、いつも以上に変ですよ。俺なんか相手に何やってるんですか」  ああ、やっぱり駄目なんだ。  永司くんの心は、まるで頑丈なカプセルに包まれているかのよう。  彼のなかにある俺に嫌われているという思い込みが、現実の俺の言葉も思いも行為も全て撥ねつけてしまう。 「……ごめんね。はしゃぎ過ぎちゃった」  自らの感情に折り合いをつけるために、俺は尤もらしい言い訳をでっちあげて謝った。  進むことも戻ることも叶わない現状に、いよいよ打ちのめされそうで。  いっそのこと、本当に彼を嫌いになってしまった方が楽なのかもしれない――  そんな考えがほんの一瞬脳裏をよぎった自分に、戦慄したのである。
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