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3.証明の途中過程
◇◇前沢永司◇◇
大学の前期の授業の多くは八月上旬で終了する。
単位取得の可否を含めた成績は、約一か月後に通知される。とはいえ、俺はどの講義もほぼ無欠席だったし、試験やレポート提出も概ねつつがなく終えたので、恐らくパスできているだろうと見込んでいる。
ちなみに偲先輩も、件の基礎英語の出席率は間違いなく七割を超えていた。頭自体はいい彼のことなので、出席日数がクリアできたなら試験はまず問題ないだろう。
その授業最終日に当たる木曜日の昼、学生生協棟のピロティで俺を見つけた偲先輩が、同級生らの輪から外れてわざわざ駆け寄ってきた。
「永司くん、やったよ! 俺、今年こそは無事に単位取れそうだよ、基礎英語」
「それは、おめでとうございます」
「君のおかげだよ。ありがとうね」
毎週部屋に泊まりにくるのを許して、朝は叩き起こしてやっていたのだから、それで単位を落としていたりなどしたら、俺も報われない。
「どういたしまして……」
形式的な礼儀で返した後、こんな言葉が俺の口をついて出た。
「……祝いましょうか?」
「え……?」
「その……一応、約半年頑張ったわけですから、慰労会? ……みたいなこととか、してもいいかなって」
自分がどうしてその発想に至ったのか。咄嗟に頭に浮かんだことだったので、理由は分からない。
直前に頭をよぎったのは、偲先輩が俺の部屋に泊まりにくる理由も習慣もなくなる、ということだった。
翌朝の講義に出席するために泊まらせて欲しいと頼まれたのを、特に考えもなく受け入れていた。
なのに、目的がなくなったことによって、今日以降その時間がまるっと俺の日常から消えていくことが、何だかとても大きな変化のように感じるのだ。
だが、それは俺の主観に過ぎないのかもしれない。まるで幻想のようなくだらない主観。
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