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「いや……別に無理にって話じゃないです。先輩は俺と違って忙しいでしょうし。そもそも単位一つ取ったくらいでそんな――」
「――する!」
俺が言い訳をつけながら自らの提案を取り下げようとするのを遮って、偲先輩が声を上げた。
「するよ、する! 慰労会したい、二人で!」
自分の申し出も仰々しいと思ったが、偲先輩のリアクションも意外なほど大袈裟だった。
両肩を掴みながら俺にしがみついて、驚きと喜びが混ざった笑みを向けてくる。
「ねえねえ、いつする!? 今日!? 今日でもいい!?」
「え……すごい食いつくじゃないですか」
勢いに思わずのけ反るものの、今夜はバイトも入っていないし断る理由はなかったので、そのまま同意した。
偲先輩のこういう時のフットワークは軽く、「俺が適当に食べる物買って行くから、永司くんは部屋で待ってて。19時頃になると思う」などと、あっという間に段取りを決めてしまう。
その全てに対して、「分かりました」と頷く俺。
偲先輩はあからさまに上機嫌だった。
「ああ、やばい……超嬉しい。永司くんに誘われちゃった……!」
曲がりなりにも公の場で、身を捩りしながら口を押えて笑みを堪えようとする様は、若干不審な感じもするが、それ以上に多くの人間が好き好きに、昼休み時間のピロティでは行き交っている。限られた時間のなかで各自の都合を優先すれば、多少奇妙な挙動をしていようと興味は持たれないらしい。
けれども俺の目には、広がる景色のなかで偲先輩の影がいちばんくっきりと浮かび上がって映った。
彼の言葉も表情も動きも、引っかかるのだ。今までも思っていたが、改めて怖くなる。
どうしてこの人は、自然過ぎるほど自然な親しみを、俺なんか相手に向けることができるのだろう――
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