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食事中の偲先輩はなおも時々俺に気遣って、どれが欲しいとか、嫌いなものはないかなどと聞いては、食べ物を取り皿に乗せてくれた。けれども、その挙動の理由を尋ねることを牽制する張り詰めたものがなお離れず、致し方なく気づかないそぶりで厚意に甘んじるしかなかった。ただ、沈黙が気まずかったので、途中でテレビをつけてバラエティ番組を流し、少しでも普段の雰囲気に近づけようとする俺だった。
画面のなかの内容を種に会話を繋いで、一時間くらいかけてテーブルの上のものを二人で平らげた。
菓子類は未開封のまま残し、一端食卓を片付けることに。
俺が食器を洗っている間、偲先輩はトレーや割り箸などのごみを分別していた。普段は食べたものもそのまま、ごみを捨てることすら面倒臭がる彼が、だ。
すっきりしたローテーブルの上に、とりあえずポテトチップスの袋を置く。
「……開けていいですか」
「待って」
他にすることもなくて袋に手を伸ばすものの、向かい側に座る偲先輩が制止した。
何故、と疑問をぶつけるよりも先に、彼は一度立ち上がり、俺の隣へ移動して座り直す。
「話したいことがあるの」
何ですか、と問いたかったが、声が出なかった。今日これまでの時間いくつも体験した違和感と今なお消えない緊張感から、何かとんでもない話が始まりそうな予感がして、思わず胸が詰まる。
「――さっきもちょっと話したことだけどさ、俺はこの春から夏まで、毎週永司くんに会えるのがすごく楽しかった」
会話と会話の間に、つけっぱなしのテレビから他愛ないトークと笑い声が聞こえてくる。
思わず何かから逃げるように俺の視線はそちらへ向いた。だが、それに気づいた偲先輩がリモコンの電源ボタンで映像も音も消し去ってしまう。
「――永司くんは? 俺が毎週泊まりにくること、どう思ってた?」
静まり返った空気のなか、顔を近づけて問われる。覗き込んでくる深い沼のような瞳は、思考さえも止めてしまうほどの引力が宿っていた。
「あ……えっと……」
やっと声は出せたものの、まともな言葉にはならない。
答えたくないわけではなく、何を言えばいいのか分からない。自分の思いに説明がつかないのだ。
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