3.証明の途中過程

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◆◆金ヶ崎偲◆◆  魂が抜けた、という表現がぴったりな顔をしてローテーブルの前につき、だらしない座位のまま宙を見つめている永司くんに、バニラアイスのカップを持って行く。グラスに注いだコーラも。 「永司くん、とりあえずデザート食べようよ。永司くーん?」  声を掛けてもぶつぶつと、うわ言を呟くばかりでこちらを見向きもしない。  どうして彼がそんな状態になっているのか。原因も経緯も俺にある。  申し訳ないという気持ちはほんの僅か。あとは、自分の言葉や行動で彼がこんなにもいじらしい反応を示した、という愉悦を伴う手応えに、ずっと胸が疼いている。  優しくしなきゃ、とは思っているし宣言もした。今、何か明るい冗談や励ましの言葉を掛けて、彼の気持ちを前向きにしてあげることも、決してやぶさかではない。  けれどもそれ以上に、健気で哀れな永司くんを見ていると、俺のなかに巣食う嗜虐的な欲が湧き立ってしまう。  隣に腰を下ろし、横から脚で挟むようにしながら密着すれば、搔き乱された心を引きずる色の彼の耳が目の前にある。  舌先でそこに触れると、びくん、という痙攣じみた全身反応とともに、永司くんの喉から悲鳴が上がった。 「……っ。訴えますよ!」  我に返って尤もらしく虚勢を張るものの、火照った肌では何の説得力もない。そんなところも愛おしいのだけれども。 「そう意地張らないでよ、相手なんだからさ」  好意を言葉で繰り返し伝えたし、半ば強引な流れとはいえ口づけも交わした。その上で、「俺と付き合って」「彼氏になって」としつこく駄々をこねたら、永司くんはとうとう根負けして「分かりました」と言ってくれた。  同意が得られればこっちのもの。俺のなかで永司くんの存在は、ただの後輩ではなく大好きな恋人へ、あっという間に変化している。  ただ、予想した通り、永司くん側の感覚は異なるようで。 「…………俺は未だに信用してないですからね」  この期に及んで、なお頑なにネガティブなことを言う。
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