104人が本棚に入れています
本棚に追加
「傍にいてよ、永司くん。離さないから、ずっとずっと。証明し続けていくから、俺の気持ちが本当だって」
正面に回って腰を下ろし、その途中過程であることを印づけるつもりで二度目の口づけを交わす。ただし、今度はより深く。
唇をそっと舌先でなぞると、永司くんはおずおずと口を開いてくれた。歯と歯の僅かな隙間から忍ばせれば、熱く濡れた彼の舌の感触に辿り着く。それを擽るように刺激する。「んっ」と短く息を漏らしたものの、思ったよりも従順な反応だった。
角度を変えて口内を弄ると、後追いするように永司くんからも舌を絡めてきた。口元自体のどちらかといえば薄くクールな印象に対して、それはふっくらとした厚みを感じるものだった。実にたどたどしく、未経験であることが丸分かりな動きが堪らなく愛おしい。
密かに捩れている彼の腰を引き寄せながら、俺は故意にねちっこいキスを繰り返す。己の理性が消える、ぎりぎり手前まで。
ひりひりと全身に衝動が走るのを堪え、永司くんを解放する。
頬を上気させ蕩けた瞳でこちらを見つめる彼の唇からは、互いのものが混ざり合った唾液が零れている。情けなさのなかに間違いなく彩られる艶っぽさは、予想以上に俺の欲を揺さぶってきた。
「あはっ……永司くん、今すごくいい顔してる。他の誰にも見せないでね、そんな姿。俺、嫉妬で狂っちゃうから」
「……偲先輩だけですよ。俺をこんな風にするの」
多分本人は言い訳じみた悪態のつもりなのだろう。けれども、色めいたその顔で言い放つそれはまるで挑発しているかのよう。
あまりに無自覚で無防備な永司くん。本人も意図しない形で俺を誘惑してしまう、恐ろしい子。
「嬉しいな。じゃあ俺、永司くんのこと遠慮なく独り占めするね」
今は軽口で返すのが精一杯だ。
経緯はどうあれここまで彼に近づいた。迂闊なはずみで失うのは、流石に怖い。
いつの間にか、テーブルに置いたバニラアイスのカップやコーラを注いだグラスの表面に、汗をかいたような水滴が浮かんでいた。「アイス溶けちゃうよ」と言ってカップの蓋を開け、柔らかくなりかけているそれをスプーンで掬う。
永司くんは未だにとろんとした顔をしていた。そんな彼の口のなかへ次々と甘味をスプーンで送ってやり、俺はひとまずこの場をやり過ごしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!