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4.優しさの真偽
◇◇前沢永司◇◇
未だに実感はふわりとしたものではあるとはいえ、偲先輩と付き合い始めて二週間が過ぎた。
サークルやバイト、友人付き合いなどの予定で相変わらず多忙な偲先輩だが、そんな間柄になってしまったせいか、わざわざ時間を縫って以前よりも頻繁に俺の部屋に来るようになった。
夏期休暇に入って通常の講義がなくなると、昼間のフリーな時間がより増えて、一日中一緒に過ごした上にそのまま泊まっていく日もあったりする。
プライベートで他人とそれほど長い時間を共にすることが皆無だった俺は、そんな拘束には耐えられないのではないかと、最初こそ不安に思った。
しかしそれは杞憂で、偲先輩と過ごす時間は、これまでと変わりなく俺の日常に溶け込んでいる。
「永司くんさ、来週の月火水って部屋にいる? ちょっと二泊三日のプランで宿泊させて欲しいんだけど」
「要するに朝起こせって話でしょ。集中講義ですか?」
「流石、俺の彼氏は察しが良くて助かる」
お盆明けの八月後半辺りからは、ぼちぼちキャンパスに登校する学生も少なくない。大体朝から夕方まで二、三日程度のスケジュールで、集中講義や演習の授業の予定が組まれるためである。人によっては複数受講する場合も間々あり、夏休みとはいえ決して二か月間丸々暇というわけではないのだ。
「ちなみに何の講義ですか?」
「児童心理学特論」
「ああ、その講義なら俺も受講するやつです。一緒に出席しましょう」
「助かるよ。何せ俺はその講義、初日に大遅刻したせいで去年履修しそびれている」
「……しっかりしろ」
そんなさもない会話を、金曜の夜に交わしている。大して広くもない俺の部屋で、それぞれクッションを抱えたり頭に敷いたりしながら、寝そべって。
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