1.自尊心の最小値

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◆◆金ヶ崎偲◆◆  永司くんは、人間関係とか感情的な面においては非常に不器用な子だ。  初対面の時は飄々として掴みどころがない印象だったけれども、それが自分を守るための虚勢に過ぎないことをのちに知った。  ポーカーフェイスと突飛な言動で、高校時代の永司くんは周囲から変わり者として敬遠されていた。しかし、それは飽くまでもポーズ。彼自らがそう印象づけていたのだ。相手よりも優位に立つために。相手から舐められないために。  そんな一癖ある永司くんだけれども、性格に反して見た目はごく普通……というか地味だ。背丈も平均的、体格も顔立ちもこれといって特徴がない。良くも悪くもない外見。私服も無難なモノトーンばかり着るタイプで、決してダサくはないがお洒落でもない。  けれども、外見上に目立った特徴がないことは、永司くんという人間を興味深いものにする要因の一つだった。例えるなら、世間的にはマイナーなアーティストの魅力に気づいた時などに感じる、「自分だけが分かっている」という何ともいえない上擦った気持ちに近いものを、俺は彼に対して抱いている。 「――――本当は、俺のこと嫌いな癖に」  俺の手を振り払いながら、永司くんは吐き捨てるように言ったかと思うと、話しかけることも許さない気迫の面持ちのまま手元のアイスを掻き込んだ。本当はコーラで流しながら口の中で味を混ぜて食べるのが好きなはずなのに、余程動揺しているのか、アイスばかりをスプーンで掬っては口に運んでいる。  永司くんは高校時代から現在に至るまで、自分が俺に嫌われていると、頑なに思い込んでいる。そして、俺のことを嫌いだと、事あるごとに暴言を吐く。
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