4-2 東国の生物兵器

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 巨熊の身体がぐらりとかたむき、前のめりに倒れる。地面にぶつかると、巨熊の頭がずるりと取れて転がった。  ヴィクラムは巨熊の死骸を一瞥(いちべつ)もせず背を向けた。刀を振って血を払い、布で刀身を(ぬぐ)いさる。  圧倒的な力の差の前では、腹も立たない。ただただ羨望(せんぼう)だけがサヴィトリの心を占める。羅刹三番隊隊長ヴィクラム・キリークの強さは、サヴィトリにとって憧れだ。 「一撃で倒せんなら、さっさと終わらせてこっち手伝えよ」  ヨイチは舌打ちをし、ヴィクラムの肩に軽く拳を当てた。身長は二人とも同じくらいだが、ヴィクラムの方が体格ががっしりとしている。 「一撃でなければ倒せなかった」  ヴィクラムは感情なく淡々と答えた。不機嫌というわけではなく、これがヴィクラムの常だ。感情の振れ幅が非常に小さい上に、ほとんど表情に出ない。 「あー、東国の生物兵器とかって噂のやつか。ったく、こんなとこまで誰が持ち込んでんだろうな。水際対策どうなってんだよ、めんどくせ」  何かを察したらしいヨイチは、心底嫌そうに舌を突き出した。
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