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「サヴィトリ」
急に名前を呼ばれ、サヴィトリはわけもなくどきりとしてしまう。ヴィクラムの重みのある低い声は、妙に身体の内側に響いた。
サヴィトリが振り返ると、現実味のない距離にヴィクラムの精悍な顔があった。強引だが嫌味のないぎりぎりの強さで顎を持ち上げられる。
唇が触れ合うすれすれのところで、
「三番隊の中に裏切者がいる」
サヴィトリだけに聞こえるようにヴィクラムは囁いた。
「……どういうこと」
サヴィトリが尋ねると、ヴィクラムは答えの代わりに両手で頬を包まれた。他の人からすれば、キスをしているようにしか見えないだろう。
「そのままの意味だ」
ヴィクラムの言葉が振動となってサヴィトリの唇に伝わる。
(こっそり伝えようとしてくれているんだろうけれど、もうちょっと他に方法なかったかな……)
サヴィトリは居たたまれなくなり、目蓋を伏せた。ヴィクラムの夜空のような瞳に見つめられていると、なんとも言えない気分になる。呼吸をするのもためらわれた。
(ヴィクラムはわかりやすく男の人、って感じがするせいか、ちょっと緊張する)
裏切者がいるという情報よりも、目の前の出来事の方にサヴィトリは気を取られてしまう。
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