4-2 東国の生物兵器

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 決して交わらない口論が始まってしまった。九割以上ヴィクラムのせいだが。  英雄然とした凛々(りり)しい見た目と、卓越した戦闘能力に惑わされるが、ヴィクラムは言動が変だ。空気が読めない。もっと直接的に言うと頭が残念だ。喋るとダメさが露呈する。言っている内容が内容なのに、態度に迷いも気後れもないのが余計に性質が悪い。  隊士たちから少し離れた木の根元に座ってぼんやりと待っていると、ほどなくしていつも通りの顔をしたヴィクラムがやってきた。またも有無を言わさず、サヴィトリの身体を抱きあげた。荷物のように肩に担ぐ。 「ヴィクラム! 今度はなんだ!」  サヴィトリの悲鳴のような問いかけに対し、ヴィクラムはほんのわずかに口の端を持ちあげた。 「ヨイチが俺たちのデートの時間を捻出(ねんしゅつ)してくれるそうだ」  途中まで二人の口論を聞いていたが、あそこからどんな飛躍すればその結論に至るのか見当もつかない。  ヨイチの方に目を向けると、何やら隊士たちに指示を飛ばしていた。
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