4-4 夜空の瞳は心を奪う★

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 ヴィクラムも、サヴィトリに対する印象は悪かったはずだ。  クベラの名家キリークの嫡子(ちゃくし)で眉目秀麗の偉丈夫(いじょうふ)。引く手あまたにもかかわらず、特定の相手をかたくなに作らない。性欲処理は妓楼(ぎろう)でだけ。しかも一度抱いた相手は二度と買わない。  そんな男の琴線(きんせん)に触れるような何かが、あったのだろうか。 「肉感的なのが好みのはずだったんだがな」  ヴィクラムは自問するように呟き、髪をかき上げた。撫でつけられた髪が乱れ、長めの前髪が目にかかる。  髪を下ろしたヴィクラムは眼光が鋭く、いやに煽情(せんじょう)的だった。サヴィトリは野生の獣に組み敷かれているような気分になった。 「悪いが、愛だの恋だのは俺にはわからん。ただ、もっとお前に触れたい、抱きたいと思った」  かすれ気味の、低く切ない声。  噛みつくように、ヴィクラムはサヴィトリの喉笛にくちづけた。  サヴィトリの身体と声が震える。息を吐くだけで胸が苦しい。  必ずしも、互いの気持ちを言葉で確かめ合う必要などないのかもしれない――ヴィクラムに触れられると、そんな気にさせられる。
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