4-4 夜空の瞳は心を奪う★

6/6
前へ
/175ページ
次へ
「はぁ……ん、はぁ……もう、いい。もういいだろうっ……」  これ以上触れられると何かがあふれてしまいそうで、サヴィトリはヴィクラムの服を引っ張った。  耳の内側で鳴っているように鼓動がうるさい。瞳が妙に潤み、瞬きの回数が多くなってしまう。 「からかうだけのつもり、だったのだがな。気が変わった」  ヴィクラムの藍色の瞳が蛍光する。  サヴィトリがまずいと思った時には、目が離せなくなっていた。  ヴィクラムが「抱かれたい男No.1」などと呼ばれている所以がこれだ。見目や家柄良いから、だけではない。  藍色の瞳には不可思議な力がある。ヴィクラムの出自に由来するものなのだという。表向きは名家キリークの嫡子だが、実際には養子だ。  普段であれば多少の違和感や圧を感じる程度だが、心が揺れている時に目が合うとまずい。熱に浮かされたようになり、心の制御がきかなくなる。性質としては魅了の術に近かった。 「見ないで……」  サヴィトリには、か細い声で懇願することしかできない。 「これに他人の意思をねじ曲げる力があるのはわかってる。それでも欲しいんだ、サヴィトリ」  ヴィクラムは自分の目元をとんとん、と指先で叩き、眉をくもらせた。  サヴィトリが手を伸ばし、ヴィクラムの顔を引き寄せたのは、自分の意思だったのか、瞳のせいだったのか、わからない。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加