4-5 アップルシードルを片手に

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「いや、私から振っておいてなんだがカイの話はもういい。犯人はどんな人物だったんだ? 東国とつながっていたのか?」 「最近二番隊から転属になった奴で、本人曰く金に困ってやったそうです。酒場で飲んだくれていたところ、フードで顔を隠した男に前金と手のひらサイズの玉のようなものを渡され、『次の討伐の際にそれとなくこれを投げろ。前金の十倍を出す』と言われたんだとか。その玉がなんなのか本人は知らなかったと言っています」 「うさんくさい話だ」 「そいつの話がどこまで本当かはまだわかりません。ただ何か政治思想があるような男ではないんで、単純に金に目がくらんでいいように使われただけだと思いますね」 (これといって手がかりになるような話ではなさそうだ)  サヴィトリは細く息を吐き、アップルシードルを手に取った。  微炭酸のジュースのような軽い飲み口で、甘さと酸味のバランスがとてもいい。リンゴそのものような瑞々しい香りが鼻を抜ける。  一気に半分ほど飲み干してしまい、サヴィトリは慌てて木製のマグをカウンターに置いた。  酒を飲み過ぎるとロクなことにならない、というのは以前ヴィクラムに付き合って酒を飲んだ時に嫌というほど学習している。酒と水の区別がつかないヴィクラムと同じペースで飲もうとしたのが悪かったのだが。
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