4-5 アップルシードルを片手に

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「市井でも殿下は面白がられてますよ。さすがあのタイクーンの娘だけあってトチ狂ってるだとか、イケメン(はべ)らせて羨ましいだとか、棘の魔女を打倒しただけあってゴリラ姫は豪快だとか。『薄い本』って俗称で呼ばれる、殿下とヴィクラムたちを下敷きにした『月影王子の世迷言(よまいごと)』ってブロマンスまで出回る始末です」 「ごりら? げつえい? ぶろまんす?」 「や、いや、なんでもないっす。飲んで忘れてください」  ヨイチは厨房の奥にいる女将に声をかけ、アップルシードルを追加で注文する。 「それはそうと、ずっと気になってて、ちょっといいですか」  ヨイチがサヴィトリの髪に手を伸ばしてきた。ちょうど後頭部のあたりで何かをつまむ。 「なんで草なんかつけてるんです? 背中にもついてますけど」  失礼します、と断ってからヨイチはサヴィトリの背中を払った。 (草、草、草……)  追加のアップルシードルをちびちびと飲みながら記憶をたどると、すぐに思い当たった。  何よりも先に顔が燃えるように熱くなる。アルコールの影響、だけではない。
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