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結局、ヴィクラムを抱きしめた後は何もなかった。ヴィクラムが一言「すまない」と言った以外にこれといった会話もなく、早めに宿へと戻ることになった。
そのせいか、サヴィトリの中で言葉にできない感情が熾火となって残っている。
「あー、はい。俺も忘れるんで、忘れてください……ほんと場所選ばねえなあいつ」
何かを察したヨイチは小さく舌打ちをし、目玉焼きにフォークを突き立てた。
「……何をしているんだ」
サヴィトリの襟首が急にぐいっと掴まれる。
王女に対してそんな無礼を働く人間はこの場に一人しかいない。しかし、サヴィトリが予想したよりもその人物の表情は何故か険しかった。
「何って、何も……」
頭や背中に草がつく羽目になってしまった時のことを思い出したせいで、サヴィトリはヴィクラムを直視できない。
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