4-6 酔った勢い

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4-6 酔った勢い

(今日はよく運ばれる日だな)  サヴィトリはアルコールで鈍った頭でそんなことを思い、ヴィクラムの腕の中で運ばれるままに任せた。  宿泊する部屋のベッドの縁に座らされ、両手で持っていた木製のマグをヴィクラムに取り上げられた。中にはアップルシードルがまだ半分近く入っている。  ヴィクラムは一息でそれを飲み干すと、部屋に備え付けの小さな丸テーブルに勢いよく置いた。脚の長さが違うのか、テーブルはぐらつき、マグが落下する。  軽い音を立てて床の上を転がるそれを、サヴィトリはぼんやりと目で追った。  不意に、サヴィトリの視線が強制的にずらされる。  ヴィクラムの大きな手がサヴィトリの顔を上向かせた。  ヴィクラムの眉間にはうっすらと(しわ)が寄り、口は固く引き結ばれている。少しの怒りと困惑が滲んでいるように、サヴィトリには見えた。  感情の起伏があまり顔に現れないヴィクラムの気持ちをくみ取るのは難しい。言葉の通じない野生の獣と相対しているような錯覚にサヴィトリは陥る。
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