5-5 一番じゃなくていい

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 ジェイは肩をすくめてみせ、口の中のものを急いで飲み込んだ。 「そもそも今回の件はさ、カイラシュさんが関知していないわけがないんだよ。代々補佐官を世襲しているアースラ家は、建国時から一族全体でこの国の暗部を一手に担っている。そんな人たちが内通者を見逃すはずがない」 「……つまりジェイは、カイが首謀者だと言いたいの?」  自然と、スプーンを持つサヴィトリの手に力が入った。 「やだなぁ。そこまでは考えてないよ。補佐官でも手が出せない人物が関わっているんじゃないかって思ってるだけ」  ジェイは慌てたように顔の前でぱたぱたとせわしなく両手を振る。 「補佐官が手を出せない人って?」 「左右丞相。あるいは、タイクーン」 「ジェイって嫌なこと言うね」  サヴィトリはスプーンを置き、小さくため息をついた。  補佐官は、太師や左右丞相と並ぶクベラ国の最高位の官職だ。現在太師が欠官(けっかん)であるため、おのずと容疑者はその三名に絞られる。「カイラシュが首謀者でないかつ、内通者が誰であるのか知っているのであれば」という前提の上での話になるが。 「あくまで推測と可能性の話だよ」  ジェイは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
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